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現代語訳「論語と算盤」②

現代語訳 論語と算盤【目次】

 

はじめに

 

● 渋沢栄一という原点

 

一般的な知名度は余り高いとはいえないが、実は渋沢栄一とは、「近代

日本の設計者の一人」に数えられる偉人に外ならない。

 

明治維新後、政治の世界でいえば、日本という国の基礎を作り上げたのは、

大久保利通や伊藤博文、井上馨といった政府高官たちだった。

一方で渋沢栄一は、日本の実業界、ひいては資本主義の制度を設計した

人物だったのだ。

 

彼が関わった会社は四百八十一社とされ(東京商工会議所調べ)、それ以外に

五百以上の慈善事業にも関わり、後世、「日本資本主義の父」「実業界

の父」と呼ばれてノーベル平和賞の候補にもなっている。

 

しかし彼の偉大さは、それだけではなかった。彼は今から百年以上前に、

「資本主義」「実業」が内包していた問題点を見抜き、その中和剤を

システムのなかに織り込もうとしたのだ。

もともと「資本主義」や「実業」とは、自分が金持ちになりたいとか、

利益を増やしたいという欲望をエンジンとして前に進んでいく面がある。

しかし、そのエンジンはしばしば暴走し、大きな惨事を引き起こしていく。

日本の大きな傷跡を残した一九八十年代後半からのバブル景気や、昨今の

金融危機など、現代でもこの種の例は枚挙に暇(いとま)がない。

だからこそ栄一は、「実業」や「資本主義」には、暴走に歯止めをかける

枠組みが必要だ、と考えていた。

その手段が、本書のタイトルにもある『論語』だったのだ。

 

『論語』は、中国の春秋時代末期に活躍した孔子と、その弟子たちの

言行録であり、その卓越した内容から後世、中国や日本、韓国、ベト

ナムなどの各国に大きな影響を及ぼしていった。いずれの国においても、

 

「人はどう生きるべきか」

「どのように振る舞うのが人として格好よいのか」

 

を学ぼうとするとき、その基本的教科書になっていたのがこの古典だった。

 

栄一は、この『論語』の教えを、実業の世界に植え込むことによって、

そのエンジンである欲望の暴走を事前に防ごうと試みたのだ。

本書のちょっとした奇妙なタイトル『論語と算盤』とは、まさしくこの

思想を体現している。

ここで現代に視点を移して、昨今の日本を考えてみると、その「働き方」や

「経営に対する考え方」は、グローバル化の影響もあって実に多様化して

いる。「金で買えないモノはない」「利益至上主義」から「企業の社会的

責任を重視せよ」「持続可能性」までさまざまな価値観が錯綜し、マス

コミから経営者、一般社員からアルバイトまでその軋轢(あつれき)のなかで

右往左往せざるを得ない状況がある。そんななかで、われわれで、われ

われ日本人が、「渋沢栄一」という原点に変えることは、今、大きな意味が

あると筆者は信じている。

この百年間、日本は少なくとも実業という面において世界に恥じない実績を

上げ続けてきた。その基盤となった思想を知ることが、先の見えない時代に

確かな指針を与えてくれるはずだからだ。

 

● 「資本主義の特徴」

 

資本主義の特徴はふたつあります。

1つめは、資本主義の社会では個人で自由にお金儲けができるので、自由な

競争が発生して経済が発展するということ。

競争がある世界では、人々は競争に勝とうと頑張ったり、新しいことを

考えたりします。その結果、社会全体の経済が発展する傾向にあるんですね。

資本主義の2つめの特徴は、競争が行われるので勝つ者と負ける者が現れ、

社会格差が生まれることです。格差とは、言い換えると「貧富の差」の

こと。大金持ちの人がいる一方で、毎日の生活に苦しむほど貧しい人々も

いる、ということです。

 

● 「実業」とは

 

実業とは、様々な解釈がありますが、一般的には「社会にとって有益な

価値を提供している事業」のことです。

具体的な分野としては、「農業」「水産業」「工業」「商業」など、生産や

経済に関連する事業のことを指します。

堅実でまっとうな事業を経営して、その対価として収益を得ている人を

実業家と呼びます。2019/06/28

 

● 「枚挙」

 

いちいち数え上げること。一つ一つ数えたてること。

 

● 「錯綜」

 

物事情報などが、複雑に入り組んだり、混乱したりしていること、などを

意味する表現。「情報が錯綜している」などという具合に使われる。

 

● 「軋轢」

 

仲が悪くなること。「軋轢を生じる」

 

●「右往左往」

 

混乱しうろたえて、右に行ったり左に行ったりすること。また、混乱して

秩序がないたとえ。

 

 

この続きは、次回に。

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