お問い合せ

現代語訳「論語と算盤」⑧

□ 人は平等であるべきだ

 

才能の向き、不向きを見抜いて、適材を適所に配置するということは、

多少なりとも人を使う立場の人間が常に口にすることだ。

そして同時に、常に心のなかでむずかしさを感じている事柄でもある。

さらにもう一つ思うのは、人を適材適所につけていくことの背後には、

たくらみが潜んでいる場合があるということだ。

自分の権力を拡大しようとするなら、こんな手がよく使われる。

つまり、自分の子分のなかからよい人材を適所に送り込んで、一歩一歩、

一段一段、じわじわと自分の勢力をうえつけ、少しずつ自分の権力の基盤

を踏み固めていくのだ。

このような工夫をする者は、ついに自分の派閥の権勢を手にして、政治や

実業の世界、ないしは社会の至るところで、揺るぎない覇権を握ることが

できるのである。しかし、このようなやり方は、まったくわたしの学ぶ

ところではない。

わたし渋沢は、渋沢の心をもって、自分と一緒にやっていく人物に相対

するのである。その人を道具にして自家の勢力を築こうとか、どうだとか

という私心は毛頭持ち合わせていない。ただ、わたしの素直な気持ちと

して、適材を適所に得たいと考えているのである。

適材が適所で働き、その結果として、なんらかの成績をあげることは、

その人が国家社会に貢献する本当の道である。

それは、わたし渋沢が国家社会に貢献する道ともなるのである。

わたしはこの信念のもとに、人物を待っている。謀略に巻き込んでその人に

汚点をつけたり、秘蔵っ子として自分の手元から出さないような罪な行いは、

決してしない。その人が活動する天地は、自由なものでなければならない。

渋沢の下にいては舞台が狭いというのなら、すぐにでも渋沢と袂(たもと)を

分かち、自由自在に海原のような大舞台に乗り出して、思うさまやれる

だけの働きぶりを見せてくれることを、わたしは心より願っている。

わたしに一日の長があるために、腰を低くしてわたしと働いてくれる人も

いるかもしれない。しかし、少々経験が足りないくらいで、威張るような

ことはしたくない。人は平等でなければならない。しかもその平等は、

ケジメや礼儀、譲り合いがなければならない。

わたしを、徳のある人と思ってくれる人もいるかもしれないが、わたしも

人のことを徳があると思っている。結局、世の中は持ちつ持たれつなもの。

自分も驕らないようにし、相手も侮らず、お互いに信頼し合って隙間風の

吹かないようにとわたしは努めている。

 

● 適材適所

 

その人の能力・性質によくあてはまる地位や任務を与えること。

 

● 権勢

 

権力を握っていて威勢のいいこと。

 

● 覇権

 

覇権あるいはヘゲモニーとは、特定の人物または集団が長期にわたって

ほとんど不動とも思われる地位あるいは権力を掌握すること。

 

● 謀略

 

人をあざむくようなはかりごと。

 

● 袂(たもと)を分かち

 

行動を共にした人と別れる。関係を断つ。離別する。

 

● 持ちつ持たれつ

 

互いに支援し合い、助けたり助けられたりして、互いの地位や関係が

続いているさまを意味する表現。 英語では近い意味の言い回しとして

「ギブアンドテイク」などがある。

 

● 驕らない(おごらない)

 

まず『驕り』とは得意になって思い上がったわがままなふるまいのこと

です。 そして、驕らないとは、「鼻にかけない」「偉ぶらない」などで、

慎み深く自分を抑えられる謙虚な姿勢を表現しています。2019/11/07

 

 

 

 

この続きは、次回に。

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