お問い合せ

現代語訳「論語と算盤」⑫

□ 得意なときと、失意のとき

 

だいたいにおいて人のわざわいの多くは、得意な時に萌(きざ)してくる。

得意なときは誰しも調子に乗ってしまう傾向があるから、わざわいはこの

欠陥に喰い入ってくるのである。ならば世の中で生きていくには、この点に

注意し、得意なときだからといって気持ちを緩めず、失意のときだからと

いって落胆せず、いつも同じ心構えで、道理を守り続けるように心掛けて

いくことが大切である。

それと共に、「大きなこと」と「些細なこと」にも気を配ったりするもの

だが、得意なときになると、多くの人の思慮はまったく逆に、「なんだ

これくらいのこと」といった具合に、「些細なこと」に対してとくに軽蔑的な

態度をとりがちになる。しかし、得意なとき、失意のときにかかわらず、

いつも「大きなこと」と「些細なこと」への緻密な心がけを持たないと、

思ってもみない失敗に見舞われやすいことを忘れてはならない。

ただし箸の上げ下ろしにも神経をつかうような「些細なこと」へのこだ

わりは、限りある精神をムダに疲れさせるだけで、何もそんなに心をつかう

必要のないこともある。また「大きなこと」だからといって、そんなに

心配しなくても済まされることもある。

だから、事の大小といったところで、表面から観察してすぐに決めてしまう

わけにはいかない。また、「些細なこと」がかえって「大きなこと」となり、

「大きなこと」が予想に反して「些細なこと」になる場合もあるから、

大小にかかわらず、その性質をよく考慮して、その後でふさわしい取扱いを

するよう心がけるのがよいのである。

これに加えて一言いっておきたいことは、人が調子に乗るのはよくないと

いうことだ。

「名声とは、常に困難でいきづまった日々の苦悩のなかから生まれてくる。

失敗とは、得意になっている時期にその原因が生まれる」と昔の人もいって

いるが、この言葉は真理である。困難に対処するときはちょうど「大きな

こと」に直面したのと同じ覚悟をもってこれに臨むから、名声を勝ち取る

場合が多くなる。世の中で成功者と呼ばれる人々は、必ず、「あの困難を

よくやり遂げた」「あの苦痛をよくやり抜いた」というような経験がある。

これがつまり、心を引き締めて取り組んだという証拠である。

逆に失敗は、その多くが得意の日に兆しをあらわす。人は得意になって

いるとき、「些細なこと」の前に臨んだときのように、「天下に、わたしの

できないことなどあろうか」という気概で、どんなことも頭から呑んで

かかるので、目算が外れがちになり、飛んでもない失敗に陥ってしまう。

それは「些細なこと」から「大きなこと」が生まれるのと同じ意味合い

なのだ。だから人は、得意なときにも調子に乗ることなく、「大きなこと」

「些細なこと」に対してと同じ考えや判断をもってこれに臨むのがよい。

水戸光圀(黄門)公の壁書の中に、「小さなことは分別せよ。大きなことには

驚くな」とあるのは、まことに知恵ある者の言葉である。

 

● 萌(きざ)し

 

物事が起ころうとしている気配雰囲気のこと。

兆し」「萌」などとも書く。

 

● 欠陥

 

欠けて足りないこと。不備な点。

 

● 道理

 

1. 物事の正しいすじみち。また、人として行うべき正しい道。

    ことわり。「道理をわきまえる」「道理に外れた行為」

2. すじが通っていること。正論であること。また、そのさま。

   「言われてみれば道理な話」

 

● 思慮

 

注意深く心を働かせて考えること。また、その考え。おもんぱかり。

「思慮が浅い」「思慮に欠ける言動」

 

● 真理

 

1. いつどんなときにも変わることのない、正しい物事の筋道。

    真実の道理。「永遠不変の真理」「真理の探究」

2. 哲学で、

     ㋐ 思惟と存在あるいは認識と対象との一致。この一致については、

          いくつかの説がある。

     ㋑ プラグマティズムでは、人間生活において有用な結果をもたらす

           観念をいう。

3. 仏語。真実で永遠不変の理法。真如。

 

● 壁書(かべがき)

 

「へきしょ」とも読み,張文ともいう。室町戦国時代の取決め事項,

事の進行次第,遵守事項などをに張出した文書。壁書と呼ばれるもの

には,室町幕府の『政所壁書』,戦国大名の発布した分国法を編集した

ものでは,肥後人吉の相良為続,長毎,長祇3代の法度を集めた『相良

氏壁書』 (→相良家法度 ) ,山陽山陰,西海3道にわたる強大な守護

分国を築き上げた大内氏法令集『大内家壁書』,豊臣氏の『大坂城中

壁書』などがある。江戸時代の藩庁にも壁書の間などがあった。

 

● 分別

 

種類によって分けること。区別すること。また、その区分。

 

 

 

この続きは、次回に。

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