お問い合せ

現代語訳「論語と算盤」⑳

□ 習慣の感染しやすさと、広まっていく力

 

もともと習慣とは、人の普段からの振舞いが積み重なって、身に染みつ

いたものだ。このため、自分の心の働きに対しても、習慣は影響を及ぼ

していく。悪い習慣を多く持つと悪人となり、よい習慣を多く身につけると

善人になるというように、最終的にはその人の人格にも関係してくる。

だからこそ、誰しも普段からよい習慣を身につけるように心がけるのは、

人として社会で生きていくために大切なことだろう。

また、習慣はただ一人の身体だけに染みついているものではない。

他人にも感染する。ややもすれば人は、他人の習慣を真似したがったりも

する。この感染する力というのは、単によい習慣ばかりでなく、悪い習慣に

ついても当てはまる。だから、大いに気をつけなければならない。

この習慣というのは、とくに少年時代が大切であろうと思う。

記憶というものを考えてみても、少年時代の若い頭脳に記憶したことは、

老後になってもかなり頭のなかに残っている。わたし自身、どんな時の

ことをよく記憶しているかといえば、やはり少年時代のことだ。

中国の古典でも、歴史でも、少年の時に読んだことをもっともよく覚えて

いる。最近ではいくら読んでも、読む先から内容を忘れてしまう。

そんな訳なので、習慣も少年時代がもっとも大切で、一度習慣となったら、

それは身に染みついたものとして終生変わることがない。

それどころか、幼少の頃から青年期までは、もっとも習慣が身につき

やすい。だからこそ、この時期を逃さずよい習慣を身につけ、それを個性に

まで高めたいものである。

わたしは青年時代に家出をして、天下を流浪し、比較的気ままな生活を

したことが習慣となってしまい、後々までその悪い癖が抜けなくて苦労した。

ただし、日々悪い習慣を直したいという強い思いから、大部分はこれを

直すことができたつもりではある。悪いと知りながら改められないのは、

自分に打ち克とうとする心が足りないということだ。

またわたしの経験からいえば、習慣は老人になってもやはり重視しなけ

ればならないと考える。青年時代に身につけた悪い習慣でさえ、老後の

今日になって、努力すれば改められるものなのだ。

今日のように、日々新たな気持ちで社会に臨まなければならないとき、

なおさら「自分に克つ」という心を持って身を引き締めていかなければ

ならない。

 

● 流浪

 

住むところを定めず、さまよい歩くこと。

「流浪の民」「諸国を流浪する」

 

● 自分に克つ

 

戦ったり競ったりする相手がいるのではなく、自分自身の悩みや困難、

精神的な弱さなどに打ち勝つことを言います。

「己に克つ(おのれにかつ)」は、自分の内面の弱さを乗り越えることを

言います。2020/08/11

 

 

 

 

この続きは、次回に。

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