お問い合せ

現代語訳「論語と算盤」㉗

□ 人生は努力にある

 

年老いてからや、逆に青年のうちでも、勉強の心を失ってしまえばその人は

進歩や成長がおぼつかなくなる。と同時に、そんな勉強をしない国民に

よって支えられる国家は、繁栄も発達もやはりできなくなる。

若い人々には大いに勉強してもらわなければならない。一旦怠けてしまえば

最後まで怠けてしまうもの、怠けていて好結果が生まれることは決して

ないのだ。

たとえば、座っていれば立って働くより楽なようだが、長い時間になると

膝が痛んでくる。それでは寝ころぶと楽になるかと思うと、これも長く

なると腰がいたくなってくる。怠けた結果はやはり怠けることであり、

それがますます甚だしくなるのがオチなのだ。だからこそ、人はよい習慣を

身につけなればならない。つまり、勤勉や努力の習慣が必要なのだ。

世間の人たちはよく、「知識を積まないといけない」「時勢を読み解か

なければならない」という。なるほどこれは必要なことだろう。

時勢を知り、よりよい選択や決断をするためには、知識を積むこと、つまり

学問を修める必要がある。とはいっても、知識がどんなに十分あっても、

これを活用しなければ何の役にも立たない。これを活用するというのは、

勉強したことを実践に結びつけることだ。こちらの方も学んでいかないと、

どんなにたくさんの知識があっても、まったく活用できなくなる。

しかも、実践に結びつけるための学びは、一時やれば済むというものでは

ない。生涯学んで、はじめて満足できるレベルとなるのだ。

結局、人が世間で成功するためには必要な要素として、知識や学問が必要な

ことはもちろんなのだが、これだけで成功できると思うのは誤解でしか

ないのだ。『論語』には、「人々がいて、郷土のお社があるような環境で

あれば、現実から十分に学ぶことができます。どうしても書物を読むこと

だけが、学ぶといえるのでしょう」との一節がある。これは孔子の弟子の、

子路の言葉だ。すると孔子は、「なるほど口ばかりの奴は嫌いだよ」と

答えている。この意味は、「口ばかりで、実践できないものはダメだ」

ということなのだ。わたしはこの子路の言葉は素晴らしいと思っている。

机にすわって読書するだけを学問だと思うのは、まったく間違っている。

要するに、普段の行いが大事なのだ。これをたとえると、医師と病人の

関係のようなものであろう。病気になると病院にあわてて駆けつけて、

いつでも治してくれると思っては大間違いなのだ。

医者はきっと、「普段から健康に注意してくださいね」と忠告するに違い

ない。だからこそわたしは、すべての人に、勉強を続けることを希望する

のと同時に、生活のなかから学ぶ心がけを失わないよう心掛けて欲しいと

思うのである。

 

● 時勢

 

移り変わる時代のようす。世の中の成り行き。時代の趨勢 (すうせい) 。

時流。「時勢に後れる」

 

● 趨勢

 

ある方向へと動く勢い。社会などの、全体の流れ。

 

 

この続きは、次回に。

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