お問い合せ

現代語訳「論語と算盤」⓻

□ 細心にして大胆であれ

 

社会の進歩とともに、秩序が整ってくるのは当然のことであるが、それと

ともに新しい活動が始めにくくなり、自然と保守に傾くようにもなる。

もちろん軽はずみな行動は、どんな場合でも慎むべきだが、あまりにリスク

ばかり気にすると決断がつかなくなり、硬直しきって、弱気一辺倒に流れ

がちになる。その結果、進歩や発展を邪魔する傾向が生まれてしまう。

個人においても、国家の前途に関しても、これはとても憂うべき事態と

いわなければならない。

世界の情勢は目まぐるしく動き、競争も激しくなり、技術は日進月歩の

ありさまだ。しかしわが国は、不幸にして長い間鎖国の状態にあり、世界の

流れに乗り損ねた。

このため開国以来、西欧の国々が驚くような急速な進歩も遂げたとはいえ、

すべてにおいていまだ遅れをとっていることは紛れもない事実だ。

つまり後進国の状態にいるということなのだ。

だからこそ、先進諸国と競争し、角を突き合わせ、追い越して行こうと

するためには、彼らの何倍もの努力を重ねて進んでいかなければならない。

個人の向上を助けたり、国家を勢いに乗せるためには、全力を尽くして

新しいことに取り組む勇ましい心が必要なのだ。

このため、今までの事業を後生大事に守り抜こうとしたり、間違いや失敗を

怖がってためらうような気力のなさでは、結局、国の勢いを衰えさせて

しまう。

ぜひともこの点を深く考えて、大いに計画し、成長をとげ、真の価値が

ある一等国にならなければならない。潑剌としたチャレンジ精神を養う

ことはもちろん、それを発揮しなければならないと痛切に感じることが、

現時点ではとくに必要なのだ。

潑剌としたチャレンジ精神を養い、それを発揮するためには、本当の意味での

自立した人とならなくてはならない。人に頼ってばかりだと、自分の実力を

著しく錆びつかせ、もっとも大切な「自信」が育たなくなってしまう。

この結果、ためらったりウジウジしがちになってしまわないよう自分に

厳しくムチ打って、弱気になるのを防がなくてはならない。

また、あまりに堅苦しく物事にこだわってしまい、細かいことに目くじらを

たてると、潑剌とした気持ちが自然に擦り減り、チャレンジ精神がくじけて

しまう。だから、この点も深く注意しなければならない。もちろん細心で

周到な努力は必要だ。しかし一方で、大胆な気力も発揮しなければならない。

つまり、細心さと大胆さの両面を兼ね備え、潑剌とした活動を行うことで、

初めて大事業は成し遂げることができるのだ。

この意味で、保守に傾きがちな最近の傾向は、大いに警戒しなくては

ならない。

しかし最近では、青年の間に新しい活気がみなぎり、青年らしさを発揮

しようという傾向も生まれてきている。これは祝うべきことだ。

そして同時に、中高年の間に活気が見られないという傾向が依然として

続いている。これは憂うべき状況といわなければならない。

自立して何ものにも頼らずやっていきたいのなら、今日のように政府万能の

状態で、民間の事業が政府の保護に恋々とするような風潮を一掃しなければ

ならない。民間の力をひたすら伸ばし、政府の助けを借りずに事業を成功

させていく覚悟が必要なのだ。また、細かいことにこだわり、一部分の

ことだけに没頭してしまうと、法律や規則のたぐいばかり増やすように

なる。その結果、作った決まりに触れないかとビクビクしたり、あるいは

その決まりにのっとっていればよいと満足したりするようになる。

こんなことであくせくしていては、とても新しいものを生み出す事業を

経営して、潑剌とした意欲をわきたたせ、世界の大勢に乗っていくことなど

おぼつかない。

 

● 恋々(れんれん)

 

未練などの気持ちが捨てきれずに、いつまでもそれについて思い悩む

さまなどを意味する表現。

 

● 風潮

 

1. 風と潮。また、風によって起こる潮の流れ。

2. 時代の推移に伴って変わる世の中のありさま。

  「時代の風潮に逆らう」

 

 

 

この続きは、次回に。

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