お問い合せ

田中角栄「上司の心得」⑯

・決断に失敗しても、逆風をかわせる「公六分・私四分の精神」

 

リーダー、上司としてギリギリの決断をしなければならないときの判断

材料で、極めて〝有効〟なのは「公6分・私四分の精神」としたのが田中

角栄であった。一見、強引、唯我独尊と映った田中の政治手法の底には、

この精神が通っていたことで、しばしばその言行に正統性をもたらした

ものであった。「田中政治」が、長く強靭だった背景の一つでもある。

こんな例があった。

田中と元首相の三木武夫は、政治的にあらゆる局面でぶつかることが

多かった。田中の金脈・女性問題による首相退陣後も、三木は自らの

権力維持と田中の影響力排除という〝両面作戦〟で、あらゆる仕掛けを

たやさなかった。このことが、三木が一方で「権力志向」「策士」とも

言われたゆえんでもあった。

田中はそうした三木の仕掛けにぶつかるたびに、「しょうがねぇなぁ」と

いった風情で向き合ってきたが、たった一度だけ「公六分・私四分の

精神」を爆発させたものだった。次のような事例がある。

 

必ず限界がくる権謀術策

 

昭和55(1980)年5月、時の大平(正芳)内閣に、社会党が内閣不信任決議案を

提出した。これに、こともあろうに自民党の三木派を先頭に、その尻馬

乗った形で福田(赳夫)派の大勢が本会議採決を欠席、事実上の賛成に

回ったことで、不信任決議案は可決してしまったのだった。

こうした場合、自民党内から若干の造反者が出るケースはあっても、派閥

単位で造反というのは前代未聞だったのだ。結局、大平は不信任決議案

可決をもって総辞職を選ばず、田中の進言により、衆院の解散、折から

参院選も待ち構えていたことから衆参ダブル選挙の道を選択することに

したのだった。

ここで、田中の「公六分・私四分の精神」が爆発した。不信任決議案が

可決され、衆参ダブル選挙が決まったその夜、田中派は衆参の全議員を

集めての緊急総会を開催、田中は政権に対するある程度の批判は許され

るが、ここまで来ると自民党の本体、日本の政治自体の行方を誤らせる

ことになると、大演説をブッたのだった。顔を真っ赤にし、流れる涙を

ハンカチでぬぐいながらの凄まじい迫力を見せつけたのである。

「諸君! 今日だけはどうしても口に出して言わなければならないッ。

政治家は、最後は51%は公に奉ずべきだ。私情というものは、49%に

とどめておくべきではないのかッ。自分のためにだけあらゆることを

して恥じることのない者は、これは断固、排除せざるを得ない。

日本を誤らせるような行動だけは、絶対に許せないのであります!

われわれのグループは、このことだけは守ろうではないか。

衆議院の諸君も、参議院の諸君も、必ず(選挙で)勝ち上がってこいッ。

私にできることは、なんでもやるつもりである!」

田中という政治家の本質に、下手な駆け引き、権謀術策は好まなかったと

いうことがあった。権謀術策にはおのずと限界があることを、事業で

もまれた若い頃の叩き上げ人生の中で熟知していたということである。

若い議員には、平素から「バカ野郎ッ、どこを見て政治をやっている。

おまえたちは、日本の政治をやっているんだ。私情で動いてどうするッ」

「何事も上すべりでなく、誠心誠意、全力投球でやれ。人は、みている」と、

叱咤激励するのが常であった。その田中の行動原理には、私情は四分に

抑えた「公六分の精神」が、常に横たわっていたということである。

「親分力」も、私情に傾くと〝威力〟は半減する。対して、「公」優先での

決断は人物を大きく見せる一方で、仮にその決断が裏目に出ても、周囲の

逆風はある程度かわすことができるということである。

「私」が優先では、同情の余地が生まれないということになる。

フランスに古くからある名言「ノーブレス・オブリージェ」(noblesse

oblige=上に立つ者はそれなりの倫理的、社会的責任があるの意)の根底に

あるのは、「公」の精神の重視ということである。上司、心せよ。

必ず生きてくる時がある。

 

● 唯我独尊

 

「天上天下唯我独尊」の意味 「天上天下唯我独尊(てんじょうてんが

ゆいがどくそん)」とはお釈迦さまが生まれた際に発した言葉です。

「宇宙の中で私より尊い者はいない」という意味で,お釈迦さまが誕生

した時に,右手を挙げて唱えたと伝えられています。2020/12/03

 

● 正統性

 

正統性とは、政治権力が最終的に支配として確立し、権威化されることを

正当化する概念をいう。

 

● 尻馬

 

人の言動に便乗して事を行うこと。「尻馬に付く」

 

● 造反者

 

同じ組織やグループに属していながらも、その組織の方針や体制などに

反対したり抵抗したりする人のこと。

 

● 前代未聞

 

これまでに聞いたこともないような珍しく変わったこと。また、たいへんな

出来事。▽「前代」は現在よりも前の時代、過去。

「未聞」は、まだ聞いたことがないという意味。

 

● 権謀術策

 

巧みに人をあざむく策略のこと。▽「権謀」はその場に応じた策略。

「術数」ははかりごと・たくらみ。

 

● 誠心誠意

 

このうえないまごころ。まごころのこもるさま。打算的な考えをもたず、

まごころこめて相手に接する心をいう。▽「意」は考え・気持ち。

 

● 叱咤激励

 

大声で励まして、奮い立たせること。▽「叱咤」は大声で励ますこと。

また、大声でしかること。「激励」は励まし、元気づけること。

 

● 私情

 

1. 個人的な感情。私意。「私情にとらわれる」「私情を交える」

  「私情を捨てる」

2. 利己的な心。私心。

   「先方の利益を思うよりもわが―を満足さすばかりの」

    〈蘆花思出の記

 

● ノーブレス・オブリージェ

 

ノブレスオブリージュ(仏: noblesse oblige フランス語: [nɔblɛs

ɔbliʒ])とは、直訳すると「高貴さは(義務を)強制する」を意味し、

一般的に財産、権力、社会的地位の保持には義務が伴うことを指す。

 

● 倫理的

 

人として守り行うべき道。 善悪・正邪の判断において普遍な規準と

なるもの。 道徳。 モラル。

 

 

 

この続きは、次回に。

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