お問い合せ

田中角栄「上司の心得」⑰

● 至言!「世の中は白と黒ばかりではない。真理は常に中間にありだ」

 

「世の中は白と黒ばかりではない。敵と味方ばかりでもない。その間に

ある中間地帯、グレーゾーンが一番広い。そこを取り込めなくてどうする。

取り込んでこそ、強い支持につながる。真理は常に中間にありだ」

田中角栄の名言は数多いが、この言葉は組織の中で生きるビジネスマン、

とりわけ部下を抱える上司には、ピカ一の至言ではないかと思っている。

田中は、この言葉に続けて、将来を期する中堅・若手議員に向かって

こうも続けたのだった。

「そのへんが分からんヤツに、天下が取れるわけがないだろう」

結果、のちにこうした田中の謦咳に接した配下から、じつに田中派からは

4人もの首相を輩出している。竹下登、羽田孜、橋本龍太郎、小渕恵三

であり、一人の実力者が輩出させた首相の数としては、かの吉田茂首相の

それを遥かに上回る。また、首相以外でも、小沢一郎、金丸信、梶山静六、

野中広務、渡部恒三など政界第一線に送り出した人材は枚挙にいとまが

ないのである。

中でも、橋本龍太郎などは類マレな頭脳明晰に加え、自信満々の人物だった

ことから、当初こうした田中の言葉にまったく聞く耳を持たなかったが、

あるときから「真理は常に中間にあり」に〝宗旨替え〟をしたものだった。

それまでは、〝孤高〟で人付き合いが悪く、彼を支える仲間、友人議員の

輪も広がらずだったが、やがてこれでは天下は取れずを自覚、田中の言に

添って「広大な中間地帯、グレーゾーン」にいる議員との交流に精を出した

のだった。結果、自信満々のそっくり返るクセを〝矯正〟した橋本に

徐々に支持の輪が広がり、ついには天下をとることができたということ

だった。さて、この「真理は常に中間あり」の言葉は、田中は自らの

叩き上げ人生の中で確信したようであった。すなわち、あらゆる組織の

中には自分を支持してくれる人間が、必ず一握りはいる。

他方、人の言動すべてが気に入らずの何でも反対組が、やはり一握りは

いるものである。その間に、自らに利あれば支持し、損ならば離れると

いう〝日和見」の連中がいる。この連中こそが、「広大な中間地帯、

グレーゾーン」ということである。

 

我を通すだけが脳ではない

 

もとより、この「広大な中間地帯、グレーゾーン」がドッと動けば、組織内の

世論となる。この世論を取り込めば、支持の輪は大きく広がるということで

ある。ために、田中は中堅・若手議員にこうも言っている。

「バカになってでも、周囲への目配り、気配りを忘れるな。他人の意見に

耳を傾けろ。我を通すだけが能ではない。これに理屈の入り込む余地

ない」

人間、時にバカになることも必要と知ることである。このへんの呼吸が

分かると、部下は間違いなく寄ってくる。

そのうえで、でき得るならば、上に立つ者は「脇はほどほど甘く、懐深く」

という姿勢でいたい。脇が固すぎると、人は寄ってこない。

浅いと、ナメられる。上司としての立ち位置、〝塩梅〟は、かく難しいと

知るべきである。

政界での上司としての田中は、脇はほどほど甘く、懐は深かった「親分」

だったと言える。「バカな大将、敵より怖い」との言葉もある。

「親分力」を身につけることで、「上司力」にさらに磨きをかけてほしい

のである。

 

● グレーゾーン

 

シロでもクロでもない曖昧さ。グレーは主張し過ぎず、服飾の世界では

流行に左右されない定番色だ。一方で、どっちつかずの状態を指し、

「グレーゾーン」などと用いられる。昭和の時代は「灰色高官」という

のもあった。不安な心理を表す色でもある。

 

● 至言

 

事物の本質を適切に言い当てている言葉。「それはけだし至言である」

 

● 謦咳(けいがい)

 

せきばらい。しわぶき。また、人が笑ったり話したりすること。

 

● 頭脳明晰

 

思考や判断力がくもりなく、はっきりしているさま。 聡明。

 

● 宗旨替え

 

宗旨替え(しゅうしがえ、「宗旨変え」とも書く)は、信仰している

宗旨宗派(おおむね、仏教といった大枠で同じ宗教の内部での違い)を

変更し、または寺請制度に由来する菩提寺を別の宗旨の寺に変更すること。

 

● 孤高

 

孤高(ここう)とは、個人の社会生活における1つの態度を表し、ある種の

信念や美学に基づいて、集団に属さず他者と離れることで必要以上の苦労を

1人で負うような人の中長期的な行動とその様態の全般を指す。

 

● 自信満々

 

自分の能力が優れている、または、自分が下した判断が正しい、といった

自信に満ちていること。 得意であること。

 

● 矯正

 

欠点・悪習などを正常な状態に直すこと。「発音を矯正する」「歯列矯正」

 

● 日和見

 

1. 有利なほうにつこうと、形勢をうかがうこと。

2. 空模様を見ること。また、その役の人。

 「夢もむすばずありしに、―に起こされ」〈浮・一代男・三〉

 

● 世論

 

世間一般の人の考え。ある社会的問題について、多数の人々の議論に

よる意見。せろん。「―を喚起する」「―に訴える」→せろん(世論)

[補説]当用漢字制定以前は「よろん」は「輿論」と書いた。「世論」は

「せろん・せいろん」と読んだ。「輿論」は人々の議論または議論に

基づいた意見、「世論 (せろん) 」は世間一般の感情または国民の感情から

出た意見という意味合いの違いがある。

 

● 余地

 

1. 余っている土地。あいている場所。

   「満員で立錐 (りっすい) の余地がない」

2. 物事をさらに行いうるゆとり。余裕。「再考の余地を残しておく」

   「同情の余地はない」

 

● 塩梅

 

[名](スル)《味の基本である塩と梅酢の意の「えんばい」と、物を

ぐあいよく並べる意の「按排」とが混同した語》

 

1. 料理の味加減。「―をまちがえて、食べられたものではない」

2. 物事のぐあい・ようす。「いい―にメンバーがそろっている」

3. 身体のぐあい・ようす。「―が悪いので仕事を休む」

4. (按排・按配)物事のぐあい・ようす・程合いを考えて、程よく並べ

   ととのえたり処理したりすること。

  「文化祭での出し物の順をうまく―する」

 

 

 

この続きは、次回に。

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