お問い合せ

田中角栄「上司の心得」㊱

自民党のピンチを救済

 

ところが、田中は大平に言った。

 

「弱気になるな。解散、総選挙だ。6月の参院選に衆院選を抱き合わせ

ての『衆参ダブル選挙』で行け。電撃的にダブル選に持ち込めば、野党は

候補者調整などで選挙態勢が整わない。絶対、勝てる。ケツをまくれ」

選挙に精通、そのノウハウの蓄積から、「選挙プロ」と言われた田中なら

ではの〝奇策〟の強行進言ということであった。結果、田中の進言を

のんだ大平は、ダブル選を選択した。しかし、参院選の公示日となった日、

心筋梗塞を発症、結果、選挙期間中の投票日10日前に逝去してしまった。

その後、ダブル選のそのものは、田中の言明したとおり衆院選で野党の

候補者の立ち遅れが目立ち、亡くなった大平への有権者の同情も重なって、

自民党は衆参ともに圧勝となった。選挙後、反主流派幹部の中から、

次のような声が出たものであった。

「田中にしてやられた、というのが正直なところだ。自民党は長い党内

抗争で世論から背を向けられていただけに、衆参それぞれの選挙なら惨敗も

あり得た。選挙前、ダブル選という発想は誰一人なく、結果的には自民党

としては〝田中様々〟ではあった。勝負にかかったときの田中のひらめきの

凄さ、決断力を、改めて見せつけられた選挙だった」

田中自身はと言えば、ここで反主流派を沈黙させ、自民党内での影響力を

温存することができたということだった。その後の「ポスト大平」で、

「本籍・田中派、現住所・大平派」と言われた鈴木善幸を後継に担ぎ出し、

その鈴木のあとは田中に頭を下げた中曽根康弘を担ぐことで、しばし自らの

復権への模索を続けることができたということであった。

鈴木には「直角内閣」、中曽根には「田中曽根内閣」との田中の影響力

温存のカゲ口も出たのであった。

いずれにしても、田中のダブル選への決断は、自民党のピンチを救った。

ビジネス社会でも、このくらいの決断力で会社に逆転の利をもたらすことが

できれば、部下の信頼もいや応なしに付いてくるということである。

一つ、二つの小さなミスなど、周囲も目をつぶってくれるということで

もある。

 

● 電撃的

 

いなづまのようにすばやく鋭いさま。

 

● 精通

 

ある物事について詳しく知っていること。物事によく通じていること。

「日本史に精通している」

 

● 蓄積

 

たくさんたくわえること。また、たまること。たくわえ。

「知識を蓄積する」「疲労が蓄積する」

 

● 奇策

 

人の予想もしない奇抜なはかりごと。奇計。

「奇策を講じる」「奇策妙案」

 

● 奇抜

 

1. きわめて風変わりで、人の意表をつくこと。また、そのさま。

   「奇抜なデザインの服」「奇抜な着想」

2. ひときわ優れていること。また、そのさま。

 

● 強行

 

無理を押しきって強引に行うこと。「採決を強行する」「強行突破」

 

● 進言

 

目上の者に対して意見を申し述べること。「機構の改革を進言する」

 

● 言明

 

 言葉に出して、はっきりと言いきること。明言。

「言明を避ける」「当初の方針で進めることを言明した」

 

● 温存

 

大切に保存すること。使わずにしまっておくこと。「主力を温存する」

 

● 模索

 

手さぐりで探し求めること。ぼさく。「解決の道を―する」「暗中―」

 

 

 

この続きは、次回に。

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