田中角栄「上司の心得」2-⑭
最後は脱帽だった石原慎太郎
こうした三宅同様、この手で、結局は〝脱帽〟せざるを得なかったのが、
作家にして永田町では反田中の急先鋒として、長らく丁々発止を繰り
広げた石原慎太郎であった。その石原は、やがて自らの書籍、新聞、
雑誌などに、おおむね次のようなエピソードを披露、実は〝角栄ファン〟
だったことを告白している。次のような話がある。
石原は、ある日の会合で田中の〝金権政治批判〟をしたあと、神奈川県の
ゴルフ場「スリーハンドレッドクラブ」にあるテニスコートで汗を流し、
クラブハウスに引き揚げてきたのだった。そこに、ちょうどゴルフで
やってきていた田中がいた。石原が一瞬マズイなと思っていると、手招き
しながら田中から声がかかったというのである。
「おお、石原君。久し振りだな、こっちに来てすわれよ」
石原が「いろいろご迷惑をおかけしてすいません」と頭を下げると、
田中は言った。「ああ、お互いに政治家だ。気にするな。
まあ、ちょっと付き合って一杯飲めよ」と。そして、自らウェイターを
呼んで、「おい、ビールをもう一つだ」と加えたというのである。
これをキッカケに、その後の石原は産経新聞誌上で「これは、何という
人だろうと思わぬわけにはいかなかった。角さんは好きだね。
私はあの人を(元々)好きだったんでね、関心がありましたもの、非常に。
関心があるっていうのは、好きになる前兆なんじゃないのかな。
あんな中世的なバルザック的な人間はいませんよ」と暴露し、「端倪
すべからざるというか、寛容というか、不思議な人だと思ってしびれたね」
(「プレジデント」平成28年8月15日号)と、飛び抜けた構想力や先見力にも
触れて〝脱帽〟ぶりを明らかにしている。
田中は先の三宅久之あるいは石原慎太郎とも、さらりと〝恩讐〟を超えて
見せている。ある種の勇気である。世の「心理戦争の勝者には、こうした
勇気が少なからず付いて回っていると知りたい。強大な人脈構築という
重い扉は、こうした形で初めて開くことになるのである。
● 脱帽
相手に敬意を示すこと。感服すること。「彼の勇気ある行動には脱帽した」
● 急先鋒
先頭に立って勢いよく行動したり、主張したりすること。
また、その人。「反対派の急先鋒に立つ」
● 丁々発止
激しい音をたてて、互いに打ち合う様子を表す語。
また、激しく議論をたたかわしあう様子を表す語。
● 前兆
何かが起こる前に現れるしるし。まえぶれ。きざし。
「噴火の前兆」「不吉な前兆」
● 中世的
相対する2つの性質の中間に位置するさま。 どちらとも言い切れない、
またはどちらの性質も兼ね備えている様子などを意味する表現。
特に、男性的・女性的な雰囲気の両方を持ち合わせている人を指して
言うことが多い。
● 暴露
むき出しにすること。特に、悪事・秘密などをあばいて明るみに出すこと。
また、それらが明るみに出ること。
「真相を―する」「収賄が―する」「―記事」
● 端倪(たんげい)
1. 物事の初めと終わり。事の始終。
2. 物事の本と末、終わりと始めを推しはかること。
あらかじめ予想すること。推測。
「この子の才能には端倪すべからざるものがある」
● 寛容
心が広くて、よく人の言動を受け入れること。他の罪や欠点などを
きびしく責めないこと。また、そのさま。
「寛容の精神をもって当たる」「寛容な態度をとる」
「多少の欠点は寛容する」
● 構想力
構想力とは「存在しないものを存在させる力」である。
構想力は、想像力、主観力、知性と感性と身体の三位一体で生み出さ
れる実践力の融合から生じる。
構想化のプロセスは、(1)構想をデザインするプロセス、(2)目的を創造
していくプロセス、 (3)エコシステムの形成プロセスからなる。
● 先見力
将来への目標、強い思いがあるかどうか。
経営者に求められている先見力とは、将来、世の中はたぶんこうなる
だろうという単なる予測能力ではなく、あくまでも企業の責任者として、
将来はこうありたいという強い願い、目標を掲げ、その実現のために
何が必要かを見通す、積極的かつ現実的な洞察力であるともいえる。
● 恩讐
恩義と、うらみ。情けと、あだ。「恩讐を越えて」
● 恩義
報いなければならない、義理のある恩。
「―を感じる」「―に報いる」
この続きは、次回に。