お問い合せ

田中角栄「上司の心得」2-⑰

● 「マッチ箱事件」で見せた上司としての素直さ

 

昭和59(1984)年は、翌60(1985)年2月に田中角栄が脳梗塞で倒れた前年に

あたる。田中はロッキード裁判を抱える中で、当時120人ほどの大派閥

田中派を索引し、身動きが取れない状態だった。

一方で、田中に代わって同派幹部の竹下登を総裁選に立て、〝派閥の

再生〟を目指そうとの派内の動きも激しくなっていた。

竹下が政権を握れば、自らの存在感、影響力が低下することを懸念して

いた田中の酒量はロッキード裁判の疲れも重なって、このあたりでピークに

達していたのであった。ほんの少しだけ水を入れたストレートに近い

「オールドパー」の名ばかりの水割りを、昼間からあおっていたのは

この頃であった。

「マッチ箱事件」は、こんなときに起きた。経緯は、田中事務所の秘書や

田中派議員らの話をまとめると、次のようなものであった。

田中が事務所で真昼間から水割りを空けていると、そこに田中派の竹下登、

江崎真澄、田村元ら四、五人の幹部がふらりやってきて、四方山話に花を

咲かせていた。そんな中で、田村が言った一言が、その場の空気を一変

させたのだった。

田村は三重県出身の衆院議員で「タムゲン」の愛称で親しまれ、運輸、

労働の両大臣のほか、国対委員長や予算委員長もこなした口八丁手八丁

ハッキリ物を言う度胸と侠気(おとこぎ)のある人物であった。

一方で、デリケートな側面もあった。当時、田中派に所属しながらも

田中派議員を中心に、無派閥議員など30人ほどの派閥横断の勉強会

「田村グループ」を主宰していたものだった。その田村が、四方山話の

さなかに言ったのである。「角さん。怒らんで下さいよ。いま、あなたは

いま刑事被告人の身だ。あんまり派閥を大きくすることは、いま避けた

ほうがいいんじゃないですか。

派閥を膨張させれば、他派、裁判所、さらには国民、皆が反発することに

なって角さんのためにならんのじゃないですか」

ここから、〝修羅場〟が始まった。折から水割りで赤ら顔に鳴っていた

田中がさらに激高、どす黒い顔つきになって言った。

「何を言うかッ。生意気を言うなッ」同時に、そばにあったマッチ箱を

田村に投げつけた。そのマッチ箱は田村の顔に当たってマッチぼうが

飛び散ったが、田村はそれを一本ずつ拾って箱につめたあと、今度はそれを

田中に向けて投げつけたのだった。箱は、今度は田中の顔に当たった。

「オレは帰らせてもらうッ」田村はこう口にすると、他の竹下らがオロ

オロする中、一人、事務所をあとにしたのだった。ところが、その日の

深夜、東京・渋谷区内の田村の自宅の電話のベルが鳴った。

田村が出ると、受話器の向こうから聞き覚えのある声がした。

 

● 索引

 

ある書物の中の語句や事項などを、容易に探し出せるように抽出して

一定の順序に配列し、その所在を示した表。インデックス。

 

● 懸念

 

1. 気にかかって不安に思うこと。「安全性に懸念を抱く」

  「先行きを懸念する」

2. 仏語。一つのことに心を集中させること。

3. 執着すること。執念。

  「かやうの者までも皇居に―をなしけるにや」〈盛衰記・一〉

 

● 四方山話(よもやまばなし)

世間。 雑談。

 

● 口八丁手八丁

 

しゃべることもやることも達者なこと。また、そのさま。

口も八丁手も八丁。手八丁口八丁。

「口八丁手八丁な男だけに世渡りがうまい」

 

● 侠気(おとこぎ)

 

弱い者を助けようとする気性。おとこぎ。「侠気に富んだ人」

 

● デリケート(delicate)

 

1. 感受性が強く、繊細なさま。「デリケートな神経」

2. 微妙で、細心の注意を要するさま。

  「デリケートな交渉段階」「デリケートな問題」

3. 精巧にできていて、こわれやすいさま。

  「デリケートな構造の時計」

 

● 修羅場

 

血みどろの激しい戦いや争いの行われる場所。しゅらじょう。

「修羅場をくぐりぬける」

 

● 激高

 

感情がひどく高ぶること。ひどく怒ること。げっこう。

「―して机を叩く」

 

 

この続きは、次回に。

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