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ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」⑥

✳️ 行動する

 

アクションプランは行動に移さなければならない。

そのためには、意思決定、コミュニケーション、機会、会議の四つに

ついて考えることが必要である。

ここではそれらの一つずつを見ていく。

 

□ 意思決定を行う

 

意思決定が意思決定たるためには、次の四つのことを決めなければならない。

 

(1) 実行の責任者

(2) 日程

(3) 影響を受けるがゆえに決定の内容を知らされ、理解し、納得すべき人

(4) 影響を受けなくとも決定の内容を知らされるべき人

 

組織で行われている意思決定のうちあまりに多くが、これらのことを

決めていなかったために失敗している。

30年前のことだが、私のコンサルタント先の1社が日本企業とジョイント・

ベンチャーを組んだとき、販売代理店に日本側の仕様がフィートでなく

メートルであることを知らせる者を決めていなかったというだけで、

日本という成長市場に参入できなかった事があった。

意思決定はすべてそれを行うときと同じ慎重さで、定期的に見直さなければ

ならない。そうすることで、間違った決定も害をもたらす前に修正する

事ができる。このことは、意思決定において、前提から成果にいたる

あらゆる段階についていえる。

定期的な見直しは、人材のリクルートと昇進の人事において特に重要で

ある。人事についての調査によれば、成功する人事は三分の一だという。

成功でも失敗でもないものが三分の一、失敗が三分の一である。

人事がうまくいかなかったときには、動かされた者を無能と決めつけては

ならない。人事を行った者が間違ったにすぎない。

マネジメントに優れた組織では、人事の失敗は異動させられた者の責任

ではないことが理解されている。

重要な仕事をこなせない者をそのままにしておいてはならない。

動かしてやることが組織と本人に対する責任である。

仕事ができないことは本人のせいではない。

だが動かしてやらなければならない。

新しい仕事でうまくいかなかった者は、前職に匹敵する地位と報酬に

戻してやることを慣行化すべきである。これを行っている組織はまだ

稀である。そのため失敗した者のほとんどが辞めている。しかも、もし

前職相当のポストに戻すことを慣行化しておくならば、うまくいっている

ポストからリスクのあるポストへの異動に意欲が生まれることになる。

組織の仕事ぶりを左右するものは、働く者の側におけるそのような意欲で

ある。

意思決定の定期的な見直しは、自己開発の手段ともなる。

意思決定の結果を期待に照合するならば、自らが強みとするもの、改善

すべきもの、知識や情報の欠けているものが明らかになる。

自らの偏りも明らかになる。

そもそも結果があがらなかったのは人事を誤ったためであることも明らかに

なる。最高の人材を最高のポストに配置するには容易でない。

最高の人材は常に多忙だからである。

意思決定の定期的な見直しは、自らの弱み、特にからっきし苦手とする

ものも明らかにする。そのような分野では何もしてはならない。

人に任せるべきである。誰にもそういう分野はある。万能の者などいない。

意思決定とはトップが行うものであり、トップが行う意思決定だけが重要で

あるかのごとき議論がある。大きな間違いである。

組織としての意思決定はスペシャリストから現場の経営管理者まであら

ゆるレベルで行われている。知識を基盤とする組織では、それぞれの意思

決定が重要な意味をもつ。知識労働者とは、自らの専門分野、例えば税務に

ついては他の誰よりも知っているべき者であり、その意思決定は組織全体に

大きな影響を与えるはずのものである。

したがって意思決定の能力は、組織のいかなるレベルにおいても、致命的に

重要なスキルであるといわなければならない。

知識を基盤とする組織では、このことを周知させておくことが特に重要で

ある。

 

● 匹敵する

 

比べてみて能力や価値などが同程度であること。肩を並べること。

「演歌に―する外国の音楽」「給料の一年分に―する金額」

 

● 慣行化

 

古くからのならわしとして行なわれること。 また、ふだん習慣として

行なうこと。

 

● 万能

 

1. すべてに効力があること。「金は―ではない」「―薬」

2. あらゆることにすぐれていること。なんでもできること。「―選手」

 

● 致命的

 

1. 命にかかわるさま。命を失いかねないさま。「―な傷を負う」

2. 損害や失敗などが、取りかえしがつかないほど大きいさま。

   「―な痛手を受ける」「―欠陥」

 

● スキル(skill)

 

手腕。技量。また、訓練によって得られる、特殊な技能や技術。

 

● 周知

 

世間一般に広く知れ渡っていること。また、広く知らせること。

「―の事実」「―の通り」「運動の趣旨を社会に―させる」

 

 

この続きは、次回に。

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