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P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊵

(10) 独善的製品

 

表5の製品BとHがその例である。これは当然成功すべきであったにもかか

わらず、まず成功していない製品である。しかもすでにあまりに多額の

投資をしてきたために、マネジメントが現実を直視できなくなっている

製品である。

明日には成功すると信じている。しかし、その明日は決して来ない。

そして、期待に応えてくれなければくれないほど、さらに資源を注ぎ込む

ことになる。

アメリカの製品史上最も有名な失敗であるフォードのエドセルは、予想

することも防止することもできない種類の失敗だった。しかも失敗が大きく

なったのは、フォードが大企業であり、自動車市場が大市場であるため

だった。だがフォードは、エドセルを早い段階で放棄し、その悪影響を

引きずることなく急速に回復することができた。

しかし、自動車業界の外部ではあまり知られていないが、ある自動車メー

カーが、マネジメントの独善的製品に四分の一世紀近くも固執し、倒産

寸前までいったという例がある。フォードのエドセルと同じような期待を

担っていたこの車は、エドセルのような完全な失敗ではなく失敗に近い

という程度のものだった。

二五年間にわたって、あらゆる分析が、その車こそ最も技術的に優れた

車であるとしていた。スタイルや価格も、市場において最大のシェアを

与えてくれるはずであり、大衆からも愛されるはずであるとしていた。

唯一の問題は、あまり売れないことだけだった。毎年毎年売れなかった。

しかし、来年こそついに成功してその価値にふさわしい市場のリーダーに

なるだろうと予測されていた。

こうしてますます多くの資金が注ぎ込まれた。さらに悪いことには、

マネジメント、技術、営業部門の最も優秀な人たちが、この失敗に近い

もののために注ぎ込まれ犠牲にされた。何らかの才能を表すと、どのような

仕事をしていようが、成功している車の仕事をしていればなおのこと、

この病気の子供のために配属された。そして半年あるいは一年後には元の

平凡な社員に戻ってしまうのだった。

二五年経ってようやく諦めたとき、かつては成功し成長しつつあった強力な

企業が、精根尽き果てていた。

この例は独善的製品に共通の傾向を明らかにしている。それは、この製品

こそ成功にふさわしく、適正な価格をつけられるにふさわしいという

マネジメントの考えである。

そのような考えはもはや経済ではない。確率論の初歩にも反する。

新製品がまあまあの成功の場合には、最高の品質であるからして成功

間違いなしと言う考えである。

そのような考えはもはや経済ではない。確率論の初歩にも反する。

新製品がまあまあの成功を収める確率は二○%であり、大成功を収める

確率は一%にすぎない。

新製品や新サービスのうち、本当に利益のあがる事業に育つものは一%に

すぎない。一九%はまあまあの主力製品や特殊製品となるが、目をみはる

成功は無理である。そして新製品や新サービスの一%は、エドセルのような

目をみはる失敗となる。それらのものは直ちに姿を消す。

そして一九%の失敗作も深刻な害を与える前に消えていく。

ということは、新製品や新サービスの六○%は生き残るほどの成功も

しないが、放棄されるほどの失敗もしないということである。

したがって、マネジメントの独善的製品となってしまうことのないよう、

新製品や新サービスの六○%に属するものを常に始末していかなければ

ならない。

資源を投入すれば見通しがよくなるという考えほど、大きな幻想はない。

ところが「一度で成功しなければ、何度でもやり直せ」という格言ほど、

一般化したものはない。だが、「一度で成功しなければ、一度だけやり

直せ。そして次は、ほかのことをせよ」のほうが正しい。なぜならば、

成功の確率は、回数を重ねるたびに大きくなるのではなく小さくなる

からである。

あらゆる新製品について、期待に応えるべき時限を設定しなければならない。

そしてその時限は、大きな前進があった場合にのみ延長することとしな

ければならない。時限の延長後、期待に応えられなければ再度の延長を

行ってはならない。さもなければ、資源と、マネジメントの時間をとら

れた挙げ句、手にするものは業績のあがらない独善的製品ばかりとなる。

このことは最もよく理解している産業が出版業である。

新刊の小説が発行後すぐにヒットしなければ広告や販促をやめてしまう。

しばらくそのままにしておき半年後に損失を計上する。

いろいろいわれているが、この慣行のために傑作が消えてしまったと

いう例はない。

 

この独善的製品は、次の類型にも関係してくる。           

 

この続きは、次回に。                     

 

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