お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-6

製造業や流通業では、物流が最大の補助的コストである。しかも金融や

サービスなど、移動すべき物体がない産業でも、書類、保険証券、小切手、

手形などの取り扱い、移動、保管、郵送は大きなコストセンターである。

しかし、それらの物の取り扱いや移動のコストについて若干なりと気に

している企業さえ、きわめて数少ない。企業の多くは、否応なく直ちに

支出しなければならない種類のコストであるにもかかわらず、輸送費の

本当の額を知らない。

輸送費の管理には物の流れ全体を物的および経済的なシステムとして

とらえることが必要である。すなわち、経済的に最小のコストをもって

して物理的に最大の量を処理しなければならない。

製品が機械から出てきた瞬間から、包装、出入庫、保管、出荷、輸送を

一つシステムとしてとらえ分析しなければならない。そして最も小さな

コストをもって輸送し、自らを含め、流通業者、顧客という全関係者に

最大の経済的価値をもたらさなければならない。

もちろん簡単にできることではない。しかし、そのための方法特にマネジ

メント上の手法はある。われわれはそれらの手法によって大きな成果を

あげることができる。

 

(3) 監視的コスト

 

監視的コストの最善の管理は活動そのものをやめることがある。

したがって「やめるとコスト以上の損失を受けるか」を問わなければ

ならない。

答えが「ノー」ならば監視の活動そのものをやめるべきである。

やめるわけにいかないならば前述の最小限の原則を適用しなければなら

ない。そして例えば、全量管理ではなく、統計的に有効なサンプル管理に

よって事故の監視と防止を図るべきである。

 

在庫管理や品質管理はすでにそのようにして行われている。

まず許容範囲を設定する。

例えば、「業績への影響という観点から、製品に対する許容できない人気の

低下度、納期や生産日程についての許容できない遅れの限界はどこか」を

問わなければならない。しかるのちに、サンプル管理によってコスト管理を

行うことになる。こうして活動とコストの大幅な削減が可能となる。

 

監視的コストの削減において、サンプル管理の中でも最も効率的な手法が

ある。それは、監視しなければならない活動であって、かつそれがほかの

監視しなければならない活動のコスト管理につながるような活動を見つ

けることである。

 

ある大手海運会社では、輸送業務、荷役業務、乗客待遇の品質管理の

ための手段として苦情処理を使っている。苦情は、積荷については、

その損傷、引き渡しの遅延、誤配から出てくる。乗客については、

障害、所持品の損害から出てくる。

もちろん、苦情を最小限のコストで解決することだけが目的ならば、

苦情の処理後は、簡単な統計をとっておくだけでよい。

苦情の九五%はその後の詳しい調査など不要である。

しかし、この海運会社では、苦情についてすべて詳しく調査することに

よって、あらゆる業務の品質管理のための手段としている。

貨物や乗客の扱いに間違いがあれば、かなり早く苦情として出てくるはず

だからである。事実すでにこの考えの正しさは証明されている。

苦情をすべて調査することによって、ほかのあらゆる業務上の間違いを

管理できることになる。しかも、苦情をすべて調査しても、ほかのあら

ゆる業務について統計的に品質管理した場合に必要となるサンプル数よりも、

調査件数は少なくてすむ。

この例は、監視的コストの管理方法について、徹底的かつふだんの検討が

必要であることを教えてくれる。通常のコスト管理の方法では適切でない。

通常の方法では監視的コストの増大は抑えられない。そもそも、コスト

削減キャンペーンそのものが、より多くを監視しより多くを防止しよう

として監視的コストを増大させてしまう。

 

この続きは、次回に。

 

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