お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-20

(9) 顧客の現実

 

そして最後に、「完全に不合理に見える顧客の行動は何か。

したがって、顧客の現実であって、わが社に見えないものは何か」と

いう問いがある。

 

消費財メーカーは、なぜ大手の小売業者が自らのブランドをもとうとする

のか、あるいは、もたなければならないかを理解することができない。

大手の小売業者は、全国ブランド、すなわちメーカーブランドの販売に

成功すればするほど、自らのブランドでそれを販売したがる。

消費財メーカーは、これを目前の利益を重視する近視眼的な考えである

としている。しかし、小売業者も、自らのブランドでは、利幅は大きく

とも、在庫のコストや売れ残りに伴うコストに食われてしまうことは

知っている。

だが、このことを小売業者がしているという事実も、消費財メーカーに

とっては、小売業者の不合理さを確認し信念を固めるだけのことになって

いる。しかし小売業者は、メーカーの全国ブランドに全面依存することに

伴うリスクを恐れているのであって、それは完全に合理的な戦略なので

ある。

店にやってくる客が目にし、買うことのできるもののすべてが、どの店

でも同じ値段で買える全国ブランドのものばかりならば、何のためにその

店に来たいと思うだろうか。誰でも扱える全国ブランドに依存した店には

個性もなければ評判もない。単に場所があるだけにすぎない。

 

● 近視眼

 

目先のことだけにとらわれ、将来の見通しがつけられないこと。

 

一見不合理に見える顧客の行動を理解するには、マーケティング的なもの

の見方が必要である。供給者たる者は、自らの論理ではなく市場の論理に

従って行動しなければならない。

メーカーは、顧客の行動を自らに有利なものにできないならば、自らを

顧客の行動に適応させなければならない。さもなければ、顧客の習慣や

ものの見方を変えるという、はるかに難しい仕事にかからなければなら

ないことになる。

小売業者が店舗の個性化のために自らのブランドをもとうとすることは、

小売業者自身の利益のためである。したがってメーカーは、それに適応

したほうがよいし、また、できることならば、それを自らの利益になる

ようにしたほうが良い。自社がすでに一つの製品について支配的な供給者に

なっていたとしても、小売業者のブランドの供給者になってよい。

これに対し、逆の例として、アメリカの大手アメリカの大手電力会社に

よるタービン購入の仕方は、一定の合理性はあるものの、メーカーや当の

電力会社の長期的な利益に反するものとなっている。現在のような購入の

仕方ではコストは不必要に高くなる。

発電所は、昔から、それぞれに別のプロジェクトとして設計されている。

しかも、電力会社の設計者は、あらゆるタービンや発電機に特徴をもた

せようとしている。しかし、タービングメーカーであるGEやウェスチング

ハウスは、大量生産を行うに十分な受注を抱えている。

したがって個々のタービンに特徴を持たせることは、余分のコストを発生

させているだけである。そのようなことは、標準部品の組み立てによって

十分満足できる製品がつくられるようになっている今日、まったく不要で

ある。

さらに、電力会社は、需要に応じてではなく、長期金利に応じて発注する。

したがってメーカーには、ほぼ五年に一度注文が殺到してくる。

そしてその二、三年後にはタービン工場は超多忙となり、そもそも発注

段階から遅れていたものを間に合わせるべく、三交代制で働かされることに

なっている。しかし、工員や半製品や機械類が、互いに邪魔し合っている

過密な工場ほどコストのかかるものはない。

GEやウェスタンハウスは、これらの問題の半分については取り組んできた。

長い時間をかけて、詳細設計ではなく性能書を提示するようにすれば、

大幅なコスト減が可能であることを電力会社にわからせた。

そして大きな進歩がもたらされた。

しかし、問題の残りの半分である金利次第の発注については、私の知る

かぎりまだ取り組んでいない。この問題の解決は可能である。

金利は循環的である。例えば発注時の金利と、その後五年間における最低

金利との差を重電メーカーが負担したとしても、低金利のリファイナンスに

よって、メーカー側のリスクはせいぜい金利分の一○%程度にとどまる。

これまでの繁閑の激しい生産による余分のコストよりも、遥かに安上がり

なはずである。

 

● 繁閑(はんかん)

 

忙しいことと暇なこと。「部署によって―の差がある」

 

この続きは、次回に。

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