P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-29
(1)「わが社は適切な知識をもっているか。
わが社の知識は成果があがる領域に集中しているか」
これに対する答えはマーケティング分析に求められる。
適切な知識とは市場での機会を開拓するうえで必要となる知識である。
「わが社は、市場においてリーダーシップを握るうえで必要な知識、
市場が卓越性を評価する領域において報酬を得るうえで必要な知識を
もっているか」
自社の知識が、市場においてまったく不適切だと知る例は少ない。
そのような企業は、知識分析に取りかかるはるか前に倒産している
はずである。しかし、自社に特有の知識が市場にとって十分なもので
ないということは十分ありうる。
新しいことを学ぶ必要性は大きい。
例えば製紙メーカーは、最先端の高分子科学を知らなければならない
かもしれない。コンピュータが登場したとき、IBMのパンチカードの
営業担当者はまったく新しい言葉を学ばなければならなかった。
時には知識の重点を変える必要もある。事業の中核的な知識であった
ものを従属的な知識に落とさなければならないこともある。
鉄鋼業では、過去二○年の間に、中核的な知識が、鉄鋼の生産から鉄鋼の
マーケティングに移っている。冶金学の進歩とともに、鉄鋼の生産は、
神秘的な練金術から設備に生産させることに変わった。
鉄鋼生産の技術が重要でなくなったということではない。
鉄鋼の生産において、他社よりも卓越することが困難になったという
ことである。
これに対し、鉄鋼のマーケティングは、外部の世界における経済的、
技術的多様性の進展と、製品ミックスの多様化の結果、主たる仕事が
単なる売上げトン数の増大であった頃よりも無限なまでに重要になって
いる。
知識が知識であり続けるためには進歩していかなければならない。
知識は、陸上競技の世界記録に似ている。世界記録は何年もの間変わら
ない。そしてあるとき、一人の選手が、一マイルを成果記録よりも少し
ばかり速く走る。あるいは一人の選手が棒高跳びで少しばかり高く跳ぶ。
すると突然他の選手が続いて快挙を成し遂げ新しい次元が始まる。
ある人間にできたことはほかの人間にも必ずできる。
そしてこのことは特に卓越性についていえる。
● マーケティング分析
マーケティング分析とは、自社データを収集、管理、運用し、マーケ
ティング担当者がそれらを最適化して必要な情報を社内外に提供する
ことです。
マーケティング分析には、施策の成果や価値を評価するために使用する
テクニックやプロセスも含まれます。そのため、マーケティング分析では
さまざまな指標を用いて成果を測定します。具体的には、すべての情報
ソースやチャネルからデータを収集して結合し、マーケティング活動が
どのように機能しているかを分析し、改善点を特定するといった流れです。
● 高分子化学(polymer chemistry)
分子量が1万程度以上の高分子化合物を研究する学問。本格的な高分子
化学はセルロースの構造解析,高分子量化合物の確認に端を発しており,
後者については,1926年頃からの H.シュタウディンガーの研究により
その基礎が確立した。高分子の生成,反応,構造,性質,加工などの
研究がこの分野に含まれ,合成高分子化合物とともに生体を構成する
● 冶金学
冶金の原理・方法・技術などを研究する学問。
● 冶金
鉱石から金属を取り出し、精製する技術。広くは、取り出した金属を
合金にしたり、加工したりする技術も含まれる。
● 練金術(れんきんじゅつ)
1. 紀元1世紀ごろ以前にエジプトに始まり、アラビアを経てヨーロッパに
さらに不老不死の仙薬を得ることができるとされ、呪術 (じゅじゅつ) 的
性格をもった。科学としては誤りであったが、多くの化学的知識が蓄積
され、近代化学成立の基礎資料となった。アルケミー。
2. 転じて、ありふれたもの、値打ちのないものを貴重なものに作り変え
るという術。
3. (「金」を「かね」と意識して)お金・財産を生み出す特別な方法。
また、非常に貴重なものを作り出す方法。「必ず儲かるという―はない」
この続きは、次回に。