P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-32
もう一つの例は、顧客の再定義が何をもたらすかを示している。
ある医療機器メーカーでは、マーケティング分析の結果、全製品を設計
し直すことにした。それまでは、医師に受け入れられることが製品の
リーダーシップと成功をもたらすと考えていた。
そこで医師に対し自社とその製品を売り込むために、多くの時間と金を
使っていた。もちろん、製品は医師から見た価値、効用、卓越性を基準に
設計していた。その結果医師から高く評価されていた。
だが病院への売上げは伸びなかった。
マーケティング分析が、医療機器を購入しているのは医師ではないことを
明らかにした。購入しているのは病院の経営管理者だった。
彼らは医師である場合も医師でない場合もあった。
しかし病院を動かしているのは彼らだった。そして病院という複雑な組織を、
何ら特別の訓練を受けていない給与の安い人たちを使って動かしていた。
彼らにとって卓越した医療機器とは、熟練した看護師や技術者の手を
借りずにすむ機器であり、取り扱いに特別の訓練を必要としない機器
だった。未熟練の者であっても患者や自分自身や機器に害を与えずに
安全に操作できる機器だった。
こうしてこのメーカーでは、最終用途に製品の焦点を合わせることにした。
したがって、医師に焦点を合わせた難しい機器から誰でも扱える機器に
設計し直した。
そして同時に、優秀な営業担当者という希少な資源の使い方も変えることに
した。それまでは医師への販売促進が大きなコストポイントになっていた。
営業部門の最も有能な人たちが、医師への売り込みにあたっていた。
逆に、病院職員に対する機器のプレゼンテーションのためのコストは、
浪費的コストに近い者とされていた。
しかしいまや、医師への販売促進は、やめてこそいないが大幅に削減し、
補助的コスト、あるいは市場をつくるためではなくせいぜい購入への
反対を防ぐための活動(監視的コスト)と位置づけている。
その代わり、病院の経営管理者や職員への販売促進、さらには教育訓練
担当者との協力を大きな関心を寄せるべき本当の生産的コストと位置
づけている。
この続きは、次回に。