お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-38

それまで中古車市場は、自動車メーカーにとって厄介者だった。

しかしスローンは、中古車市場こそ大衆市場であるとした。

新車を買った客が、一、二年後には簡単に転売できるように車を設計し、

販売とサービスを行った。

彼はまた、中価格車市場では価格はさほど重要ではないと考えた。

ステータスを表すものとしての車の役割が大きいとした。そのため、

一定の継続性はある個性的なスタイリングによってそれぞれの車種に

顧客を結びつけることを目指した。

例えばビュイックは、そのスタイル、価格、販売方法、販売促進を通じて、

一貫して、成功した自由業の人々の車であるとした。

最高級車については、スローンは、大量生産できるほどに大量に販売

できる最高級車とはどのようなものかを考えた。

そのような考えもまた独創的であるだけでなく、異端的だった。

最高級車なるものは、生産量が少なく、価格の高い手づくりの工芸品で

なければならなかった。事実、それまでのGMのキャデラックはそのような

車として成功していた。

しかしスローンは、せっかく利益を上げていた手製のキャデラックの生産を

中止し、流れ作業の大量生産のキャデラックに代えた。

価格を引き下げ、性能を上げ、ロールスロイスに次ぐ車とした。

数年後には、シボレーが低価格帯の標準車として位置づけられた。

しかしこのようなスローンの構想は、天才のひらめきによるものでも、

時間をかけた数学的なモデルや複雑なコンピュータの計算によるものでも

なかった。

もちろんスローンは、GMの経営を引き受けるにあたって自動車市場に

ついて研究はしていた。しかし、それまでの彼の直接の関心は、自動車

そのものではなく部品だった。しかも、自動車市場を研究はしたものの、

スタッフを大勢使ったわけではなかった。何人かの役員を集めて小さな

委員会をつくり、ひと月ほどかけて検討しただけだった。

市場を見て、社内の役員やディーラーにいくつかの質問をしただけだった。

大きな意思決定と行動のためには、短期のかなり簡単で大づかみの検討で

十分である。分析も通常の手法で十分である。

もちろん、検討を容易にするものであるならば、複雑な手法を使うことも

できる。

こうしてつくられたスローンの構想も、完全な実現には年月を必要とした。

例えば、ポンティアックがスローンの構想に沿った車になるには一五年を

要した。しかし基本的には、スローンの構想は直ちに成果をあげた。

そしてこの成果を早さこそ、理想企業のアプローチ、すなわち市場が望む

企業というアプローチの特質である。

 

● 興隆(こうりゅう)

 

勢いが盛んになること。「民族の―を促す」「庶民文化が―する」

 

この続きは、次回に。

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