お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-53

(2) 産業の経済性

 

産業としての経済性そのものが制約や弱みであることがある。

ここでも、製紙業をあげることができる。

紙は、鉄鋼と同じように多用途の材料である。しかも製紙業は、鉄鋼業の

数倍の速さで成長してきた。そして紙に対しても、鉄鋼と同じように多くの

新素材が進出してきている。それらの新素材のそれぞれが、特定の目的や

最終用途については紙よりも適している。そして紙は、これまた鉄鋼と

同じように、それら新素材よりも割高になっている。

製紙の工程は原木の四分の一しか利用しない。原木の半分は森に残して

いる。四分の一は樹皮、葉、小枝、不純物として捨てている。

しかし製紙メーカーが代価を払っているのは、原木に対してである。

その結果、製紙の原材料であるパルプは、例えば、石油精製の副産物と

して事実上コストのかかっていないプラスチックの原料と比べて膨大な

コストがかかっている。

もし、製紙の工程が、今日捨てている原木の四分の三を製品にすることを

可能にするならば、紙のコストは大幅に安くなる。しかし、もしこれが

できなければ、多目的な材料としての紙もやがてわずかの用途に限定される

ことになる。製紙業は、経済の発展とともに成長するのではなく縮小して

いくことになる。

これに対し製紙メーカーは、今日捨てている原木の四分の三の部分の

利用方法などありえようがないという。さらには、原木の科学的処理の

効率が小さいだけであるという。すなわち、自分たちに責任はないという。

もちろんそのとおりである。しかし、たとえ基本的な制約に対して直接

手を打つことが不可能であるとしても、現にそのような制約が存在して

おり、その制約が製紙業の将来を危うくするかもしれないという事実に

変わりはない。また、そのような制約の除去が、製紙業の経済性に対し

革命的な影響を与えるに違いないという事実も変わりない。

要するに、いかに見通しが困難であろうとも、それこそまさに製紙業が

継続して取り組むべき領域である。なぜなら、ひとたび変化が生ずれば、

その変化はきわめて急速たらざるをえないからである。

 

この続きは、次回に。

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