P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-88
○ 革新的機会
これらの機会に対し、革新的機会は事業の基本的な性格と能力を変える。
その典型が、実現のためには確信を必要とするが、もし成功するならば異常
なほど大きな成果をもたらしてくれるという「制約の除去」である(第10章参照)。
確信的機会の実現には非常な労力を必要とする。そのためには、第一級の資源、
特に第一級の人材を充てなければならない。膨大な投資までは必要としなく
とも、多額の研究開発費を必要とする。しかもリスクは常に大きい。
したがって、最も控え目に見た場合でも、利益はきわめて大きくなければ
ならない。そうでなければ、それは小さな機会にすぎず、追求する価値はない。
目を見張る成長を遂げたゼロックスの物語こそ、革新的機会の成功物語である。
その技術は、事務用コピーに対する大きな制約を除去するために開発された
ものだった。かなりの数の大企業に持ち込まれたが、製品化のリスクがあまりに
大きくコストもあまりにかかると断られていたものだった。
ゼロックスの前身たるハロイド社は、この話に乗った頃はごく小さな企業に
すぎなかった。しかし同社は、実用化にいたる間、四○○○万ドルを借り入れて
研究開発に投じた。その成果は異常なまでに大きく、しかも急速にもたらされた。
未来において何かを起こそうとするならば、革新的機会を軽く見ることは
できない。革新的機会こそ未来において何かを起こす典型的な機会だからで
ある。だがそのために必要とされるものはあまりに大きい。
したがって成功の暁には、常に単なる製品の追加ではなく新しい産業の創出が
もたらされなければならない。
機会はまた、それぞれの企業に適合しているかによっても分類することが
できる。
アメリカの大手雑誌出版社であるタイムは一般向けの雑誌以外で成功した
ことはない。他方、もう一つの雑誌社マグローヒルは、化学エンジニアリング
など特定の分野の限定された読者向けの雑誌でしか成功したことがない。
したがってタイムにとっては、マグローヒルにとって易しい事業であっても、
不適切とまではいかないにしろリスクが非常に大きいということがありうる。
その逆もある。
同じように優れたマネジメントを行っている企業でありながら、一方にとっては
易しく他方にとっては難しいということについては、明確な理由は見つから
ない。しかしそのようなことは実際にある。したがって、機会についても、
過去の成功と失敗に照らして検討しなければならない。理由が何であれ、苦手な
種類の機会は成功と失敗に照らして検討しなければならない。
しかし、事業の定義に合致しない機会であっても、正しい機会であることが
ある。事業の定義と機会の間の不調和は、事業の定義のほうを再検討すべき
時が来ていることを教えているかもしれないからである。
ただし、そのような場合を除き、通常は、事業を横道にそらせる機会には、
負担する価値のないリスク、すなわち成功しても成果を利用できないという
リスクが伴っているといってよい。
この続きは、次回に。