「道をひらく」松下幸之助 ㊱
・世間というもの
世間というものは、きびしくもあるし、また暖かくもある。そのことを、
昔の人は「目明き千人めくら千人」ということばであらわした。
いい得て妙である。
世間にはめくらの面もたくさんある。だから、いいかげんな仕事を
やって、いいかげんにすごすことも、時には見のがされてすぎてしまう
こともある。つまりひろい世間には、それだけの包容力があるという
わけだが、しかしこれになれて世間をあまく見、馬鹿にしたならば、
やがては目明きの面にゆき当たって、身のしまるようなきびしい思いを
しなければならなくなる。
また、いい考えを持ち、真剣な努力を重ねても、なかなかにこれが世間に
認められないときがある。そんなときには、ともすると世間が冷たく
感じられ、自分は孤独だと考え、希望を失いがちとなる。だが悲観する
ことはない。めくらが千人いれば、目明きもまた千人いるのである。
そこに、世間の思わぬ暖かさがひそんでいる。
いずれにしても、世間はきびしくもあり、暖かくもある。だから、世間に
たいしては、いつも謙虚さを忘れず、また希望を失わず、着実に力強く
自分の道を歩むよう心がけたいものである。
● 目明き千人めくら千人
めくら【盲】 千人(せんにん)目明(めあき)千人(せんにん) 世の中には、
道理や物事の本質がわかる人もいればわからない人もいることをいった。
世の中は賢愚相半ばしているということ。 めきき千人めくら千人。
● 賢愚相半ば
功績と罪過が半々で、よいとも悪いともいえない。
● 罪過
法律や道徳、宗教の教えなどに背いた悪い行いと、そのような失敗。
● いい得て妙
言い得て妙(いいえてみょう)とは、「巧みな表現で的確に言い表して
いる」ことを意味する表現であり、「まさにぴったりな表現だ」「うまい
こと言うものだ」という趣旨を表す定型的な言い回しである。
この続きは、次回に。