「道をひらく」松下幸之助 ㊶
・窮屈はいけない
窮屈な場所に窮屈にすわっていると、血のめぐりも悪くなって脚もしび
れる。身体が固くなって、自由な動作がとれないのである。
無作法は困るけれど、窮屈はなおいけない。やっぱり伸び伸びとした
自由自在な姿が欲しいものである。
どんな場合でも、窮屈はいけない。身体を窮屈にするのもいけないが、
心が窮屈になるのはなおいけない。心の働きが鈍くなって、よい知恵が
出てこないのである。
ものには見方がいろいろあって、一つの見方がいつも必ずしもいちばん
正しいとはかぎらない。時と場合に応じて自在に変えねばならぬ。
心が窮屈ではこの自由自在を失う。だからいつまでも一つに執して、
われとわが身をしばってしまう。身動きならない。そんなところに発展が
生まれようはずがない。
万物は日に新たである。刻々と変わってゆく。きょうは、もはやきのうの
姿ではない。だからわれわれも、きょうの新しいものの見方を生み出して
ゆかねばならない。
おたがいに窮屈を避け、伸び伸びとした心で、ものを見、考えてゆき
たいものである。
● 窮屈
また、そのさま。「―な服」「座席が―になる」
2. 思うようにふるまえず気詰まりであること。また、そのさま。
「お偉方ばかりで―な会だ」「―な思いをする」
〈芥川・文芸的な、余りに文芸的な〉
3. 形式張って堅苦しいこと。融通のきかないこと。また、そのさま。
「―で面白みのない男」「―に考えすぎる」
4. 物や金が不足してままならないさま。「―な暮らし」
● 執する
深く心にかける。とらわれる。執着する。しっする。
● 万物
・ものの道理
人間おたがいに落着きを失ってくると、他人の庭の花が何となく赤く
見えてきて、コツコツまじめにやっているのは自分だけ、人はみなぬれ
手でアワ、ラクをしながら何かボロイことをやっているように思えて
ならなくなる。だから自分も何か一つと思いがちだが、そうは世間は
ゆるさない。
人情として、ときにこんな迷いを持つのもムリはないけれど、この世の
中に、決してボロイことはないのである。ラクなことはないのである。
あるように見えるのは、それはこちらの心の迷いで、本当は、どなた
さまも、やはり一歩一歩地道につみ重ねてきた着実な成果をあらわして
おられるのである。
だから、努力もせずにぬれ手でアワみたいなことをやってみても、それは
虫がよすぎるというもの。一時はそれですごせても、決して長つづきは
しない。結局は失敗ということになる。これが、ものの道理であって、
この道理をはずれた望みを持つというのは、それこそ欲が深いという
ものである。
欲が深いは失敗のもと。やはり、ものの道理に適した道を、一歩一歩
あゆんでゆきたい。
この続きは、次回に。