「道をひらく」松下幸之助 ㊿+19
・後生大事
賢い人が、賢いがゆえに失敗する、そんな例が世間にはたいへん多い。
賢い人は、ともすれば批判が先に立って仕事に没入しきれないことが
多い。だから、せっかくの知恵も生かされず、簡単な仕事もつい満足
にできないで、世の人の信用を失ってしまう。
ところが、一方に「バカの一つ覚え」といわれるぐらい仕事に熱心な
人もいる。こういう人は、やはり仕事に一心不乱である。つまらない
と見える仕事も、この人にとっては、いわば後生大事な仕事、それに
全身全霊を打ちこんで精進する。しぜん、その人の持てる知恵と最上
の形で働いて、それが仕事のうえに生きてくる。
成功は、そこから生まれるという場合が非常に多い。
仕事が成功するかしないかは第二のこと。要は仕事に没入することで
ある。一心不乱になることである。そして後生大事にこの仕事に打ち
込むことである。そこから、ものが生まれずして、いったい、どこか
ら生まれよう。
おたがいに、力及ばぬことを嘆くより先に、まず、後生大事に仕事に
取り組んでいるかどうかを反省したい。
● 後生大事
非常に大切にすること。そのことを揶揄やゆして用いることが多い。
もとは仏教の語で、来世の安楽を願ってひたすら善行を積んで仏道に
励むことをいった。▽「後生」は死んで後の世に生まれ変わること。
● 没入
一つのことに心を打ち込むこと。没頭。もつにゅう。「仕事に―する」
● バカの一つ覚え
愚かな人は、聞き覚えた一つのことを、どんな時にも得意げに持ち
出す。 何度も同じことをいう人をあざけっていう。2021/07/01
● 一心不乱
何か一つのことに心を集中して、他のことに心を奪われないさま。
● 全身全霊
「霊」は肉体に対する精神のこと。その人のもっているものすべてを
表す。
● 精進
一つのことに精神を集中して励むこと。一生懸命に努力すること。
「研究に―する」
この続きは、次回に。