「道をひらく」松下幸之助 ㊿+34
・信念のもとに
昔の商人は〝店是とのれん〟というものを、ずいぶん大事にした。
ときには、自分の生命よりもこれを大事にした。伝来の店是とのれんを
守ることに、商人としての生命をかけて、これに強い信念を置き、誇り
を感じていたのである。そのことのよしあしは別として、〝武士道とは
死ぬことと見つけたり〟といったあの葉隠武士の信念に一脈相通ずる
ものがある。そしてそこに土性骨といわれるものの源泉があったので
ある。
時代は変わった。人の考えも変わった。しかし信念に生きることの尊さ
には、すこしも変わりはない。いや今日ほど、事をなす上において信念
を持つことの尊さが痛感されるときはない。為政者に信念がなければ
国はつぶれる。経営者に信念がなければ事業はつぶれる。そして店主に
信念がなければ店はつぶれる。誇りを失い、フラフラしているときでは
ない。
正しい国是を定め、誇りある社是を定め、力強い店是をきわめて、強い
信念のものに、自他ともに確固たる歩みをすすめたい。そこから国家の、
事業の、お店の、そしておたがい個々人の真の繁栄が生み出されてくる
と思うのである。
● 店是
その店の運営上の方針。
● 葉隠武士
『葉隠』は武士達に死を要求しているのではなく、死の覚悟を不断に
持することによって、生死を超えた「自由」の境地に到達し、それに
よって「武士としての職分を落ち度なく全うできる」の意である。
武士として恥をかかずに生きて抜くために、死ぬ覚悟が不可欠と主張
しているのであり、あくまでも武士の教訓(心構え)を説いたもので
あった。
● 土性骨
「―をたたきなおす」
● 為政者
為政者(いせいしゃ)は「政治を行う人」を意味する語。
「政(まつりごと=政治)を為す(=行う)者。
「為政家(いせいか)」ともいう。
● 国是
国全体が是(ぜ)と認めた政治上の方針。一国の確定した施政方針。
● 社是
社是とは、会社の経営上の方針またはその主張を表す言葉、具体的には
会社の経営理念をもとに、経営方針を分かりやすい言葉で表現し作成
した、その会社において最も重要なもののこと。
この続きは、次回に。