続「道をひらく」松下幸之助 ㉞
● あやまる
りくつを言って、べんかいを言って、人をそしって、自己を主張して、
わめきにわめいているそんなとき、フト心のスミでささやく声がある。
自分もやっぱり悪かった。すまなかった—–と。
あやまりたいのである。あやまってしまいたいのである。
けれどもあやまれない。だからまたわめく。わめきながら、また心の
声がささやく。あやまりなさい、素直にあやまりなさい、そうしたら、
どんなに心が軽くなることか。
顔がこわばる。眼に涙がにじむ。正しいと思っているその正しさが
小さなとらわれから出ていることに次第に気づかされていくこのくや
しさ。
思わず唇をかみしめるけれど、やっぱりあやまれない。
あやまりたくなければ、あやまらなくともよい。口先だけのそらぞら
しい謝罪の言葉より、心のささやきに涙ぐむその悩める姿の方が、
よほど心が通い合う。そして、素直にあやまりたくなったとき、あや
まればよい。相手もまたあやまるであろう。
あやまらなくてもよい人は、この世の中、誰一人としていないのだから。
この続きは、次回に。