お問い合せ

Think clearly シンク・クリアリー ⑦

7. 好ましくない現実こそ受け入れよう—失敗から学習する

 

□ 「フライトレコーダー」が全航空機に搭載されたわけ

 

世界初の量産型ジェット旅客機であった、イギリスのデ・ハビランド社

の「コメットMk1」。一九五四年にかけて、この飛行機には次々と謎めい

た事故が起きた。機体が空中分解するという事故である。

(中略)

結局、何が原因だったのか?

最終的に、コメットMk1の「窓の形が正方形であること」が問題であると

判明した。「正方形の窓」の角の部分から生じた亀裂が機体全体に広がり、

最後には飛行機がバラバラになってしまうのだ。いまでは「丸窓」の

飛行機しか見ないのは、そのためである。

だがそれ以上に重要なのは、この事故をきっかけに導入されるように

なった、もうひとつの対策だ。事故の原因究明にたずさわった科学者の

デビット・ウォーレンが、衝撃に強い「フライトレコーダー(飛行記録

装置)」を定期航空便全便に搭載するよう提案し、そのアイデアが採用

されたのだ。

(中略)

ひとつひとつの墜落事故で学んだことを、未来のフライトの安全性向上

に役立てているのだ。「失敗からの学習」とでも言うべきこのアプロー

チは、優れた思考の道具として、人生のほかの領域でも活かすことが

できる。

 

□ 自分の脳をごまかしてみても、なんにもならない

 

ロンドン・スクール・オブ・エコノミストの心理学者、ポール・ドーラ

ンは、こんな指摘をしている。「体重が増えつつある人は、たとえば仕事

のように、体重とはあまり関係ないことにだんだんと興味の中心を移して

いく」と。

なぜなら、気持ちを体重からそらすほうが、やせるよりもラクだからだ。

けれども、あなたが気持ちの中心をどこに置こうが、どんな同期で何に

興味を持とうが、事実は少しも変わらない。

また、あなたがその事実についてどう思おうが、どんな感情を持とうが、

現実世界には何の影響も及ぼすことができない。自分の脳をごまかして

みてもなんにもならないのだ。

 

「自己欺瞞をなくすことこそが、確実で長く幸せを手に入れるための

絶対条件である」と、イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは書い

ている。

確実で長く続く幸せなど存在しないことを考えれば、この言葉は大げさ

だが、自己欺瞞と良い人生は共存できないという点で、ラッセルの指摘

は的を射ている。

「好ましい現実」を受け入れるのは簡単である。だが「好ましくない現実」

もまた受け入れなくてはならない。——–いや、「好ましくない現実」

こそ、受け入れる必要があるのだ。

 

○ 自己欺瞞

 

自分自分の心をあざむくこと。自分良心本心に反しているのを

知りながら、それを自分に対して無理に正当化すること。自欺 (じき) 。

 

□ 「失敗の原因」を突き止めるたび、人生は上向く

 

だが、「自分に足りないところ」や「自分の失敗やつまづき」を素直に

受け入れるには、具体的にどうすればいいのだろう?

それは、自分ひとりではなかなか難しい。往々にして私たちは、自分の

ことより他人のことのほうがよくわかる。そのため、他人に失望するこ

とは多くても、自分自身に失望することはめったにない。

一番いいのは、あなたにありのままの真実を示してくれる「人生のパー

トナー」や「友人」を持つことだ。それでもあなたの脳は、好ましくな

い事実をどうにかして美化しようとするだろうが、時が経つにつれて、

周りの人たちの声を素直に受け入れる姿勢が身についてくるはずである。

 

私たちはありのままの事実を受け入れるだけでなく、「失敗」から学ぶ

必要もある。それには、「あなた自身のフライトレコーダー」をつくっ

ておくことだ。重要な決断をするときには、想定できること、思考の過

程、結果など、頭に浮かんだことをすぐに書き留めておこう。

自分の決断が間違いだったと分かったときには、そのフライトレコーダ

ーを見直して(フライトレコーダーは墜落しても壊れないほど頑丈である

必要はない。普通のメモ帳で十分だ)、あなたの考えのどこに問題があっ

たかを細かく分析すればいい。

難しいことではない。失敗をして、その失敗の原因を突き止めるごとに、あ

なたの人生は向上する。失敗の原因がわからなければ、あなたはまた失敗

をくり返すことになる。だが、粘り強い分析をして原因を解明しておけば、

同じ失敗は避けられるのだ。

「失敗からの学習」は、プライベートなことだけでなく、ビジネスでも

役に立つ。どの企業も、失敗から学ぶという手順を標準マニュアルとして

取り入れるべきだろう。

素直に事実を受け入れて「失敗からの学習」ができたら、次に、今後の

ために突き止めた「失敗の原因」を取り除く努力をしよう。

この点に関して、チャーリー・マンガーはこんなことを述べている。

「問題を処理せずにその問題が解決不能になるまで放っておくような

人間は、大きな問題を抱えて当然の、大間抜けである」。

問題は、手に負えなくなるまで放置すべきではない。

「あなたが現実を飲み込まなければ、現実のほうがあなたを飲み込んで

しまう」。作家のアレックス・ヘイリーも、そう警鐘を鳴らしている。

 

結論。現実を受け入れよう—-ありのままの現実を。

すぐには難しいかもしれないが、現実の好ましくない面は特に受け入れ

たほうがいい。受け入れるための努力をすれば、その努力はやがて報わ

れる。

人生は単純ではない。どんなによい人生であっても、たくさんの失敗が

つきものだ。たまには失敗するのも仕方ない。

重要なのは、「失敗の原因」を突き止めること、そして、その「原因」を

完全に取り除くことだ。問題というものは、かの有名なボルドーワイン

とは違い、長期間貯蔵しておいても質はちっとも上がらないのだ。


 

この続きは、次回に。

 

 

2024年9月30日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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