Think clearly シンク・クリアリー ⑳
20. 自分と波長の合う相手を選ぼう—自分は変えられても、他人は変えられない
□ 久しぶりに訪れた場所で感じたこと
(中略)
駅でも街でも大学でも、くり返し訪れているあいだは大して気にとめていなくても、
久しぶりに訪ねたらすっかり変わってしまっていた場所を、あなたもいくつか知って
いるだろう。
では、あなた自身はどうだろう? 時間の流れとともにどのぐらい変わっただろうか?
□ 「二○年前の自分」と「二○年後の自分」の変化
「二○年前の自分のこと」を思い出してみよう。仕事や住まいや、養子といった外面的
なことではなく、あなたの性格や気性、価値観、好みなどが二○年前にはどうだったか
を考えてみてほしい。
いまのあなたと比較して、その違いに0(まったく変化なし)から10(まるで別人のように
変わってしまった)までで点数をつけるとしたら、どうだろうか?
私がこの質問をすると、ほとんどの人は「ここ二○年のあいだに、自分の性格や価値観
や好みが少し変化したこと」に気づく。一番多い答えは、2から4のあいだだ。
チューリヒの空港ほど極端ではないが、それでも人間もある程度は変化するということ
になる。
それではあなたは、「これからの二○年」で自分はどのくらい変わると思うだろうか?
そう尋ねると、点数はずっと低くなる。だいたい0から2の間だ。
つまりほとんどの人は、空港や駅や街とは違って、自分の性格がこれから変わるとは
思っていない、あるいは変わるとしてもごくわずかだと思っている。
本当にそうだろうか? 私たちの性格は、ちょうどいま、変化し終えたばかりなのだろうか?
もちろんそんなはずはない。
ハーバード大学の心理学者、ダニエル・ギルバードはこの錯覚を「歴史の終わり幻想」
と呼んでいる。
実際には、私たちはこれからも、ほぼこれまでと同じように変わりつづける。どんな
ふうに変わるかはわからないが、将来のあなたの性格や価値観がいまとは違っている
ことだけは確かだ。研究によってこれははっきりと示されている。
□ 私たちの「好み」は驚くほど変わりやすい
「二○年前の自分」を思い出してみてほしい。当時、あなたのお気に入りの映画は何だった
だろう?
では、いまのお気に入りは? その頃慕っていた人たちは誰で、いま慕っている人たちは
誰? 当時大事だった友人はどんな人で、いま大事にしている友人はどんな人?
一分間かけて、これらの質問に答えてほしい。
(中略)
現在好きなバンドを一◯年後に見るために支払う金額は、一○年前に好きだったバンド
をいま見るために支払う金額より、平均して61パーセントも高かったのだ。「歴史の
終わり幻想」の作用と、私たちの好みの変わりやすさを実によく表している。
□ 自分以外の人間の性格はけっして変えられない
「性格の変化」については、よいニュースと悪いニュースがある。まずは良い方から
見ていこう。
自分の性格の変化をコントロールするのは難しい。性格の変化の大部分は、遺伝子に
組み込まれたプログラムに沿って起きているからだ。
だが、ほんの僅かでも性格の変化に影響をおよぼせる可能性があるから、それを試して
見る価値はある。もっとも効果が期待できるのは、「あなたが、自分自身の性格を、
あなたの慕っている人に近づくように意識すること」だ。だが、誰をモデルにするかは
慎重に選んだほうがいい。
悪いニュースは、相手があなたのパートナーであろうとあなたの子どもであろうと、
「自分以外の人間の性格は変えられない」ということだ。本人が望まなければ性格は
変わらない。強制してみても論理的に説明してみても、けっしてうまくいかない。
よい人生にするために、私がもっとも大事にしているルールのひとつに「誰かの性格を
変えなければならないような状況を避ける」というのがある。このルールのおかげで、
私はこれまでたくさんの厄介ごとやお金の無駄づかいを避けてこられた。
誰かに失望させられることもなかった。
たとえば私は、性格の改善が必要な人間は雇わない。私がその人間を変えようとしても、
むなしいだけだとわかっているからだ。
そして、どんなに多額の利益が見込める場合でも、自分と波長の合わない人たちとは
ビジネスをしない。そこで働く人たちの考え方や物の見方を変えなければならないよう
な組織の運営も、引き受けないことにしている。
□ 最初から「信頼できる相手」とだけ付き合う
賢い企業家はずいぶん前から、これを実行している。
順調な黒字経営を続けるアメリカのサウスウエスト航空は、すでに創業時に「社の気質
に合う人を雇い、スキルはトレーニングで身につけさせる」という企業理念を社旗に
書き込んでいる。
人間の気質は変わらない。少なくとも適正な時間内では無理だし、そもそも周りからの
働きかけで変わる物ではない。だがスキルは違う。いくらでも身につけることができる。
この単純なルールを無視する人が多いことに、私はいつも驚かされる。
(中略)
似たような処世訓に「好感があって、信頼のおける相手としか、仕事をしてはならな
い」というのもある。
チャーリー・マンガーもこんなことを言っている。「信頼できる相手とだけ付き合って、
それ以外の人間はすべて追い払ってしまえば、とても快適になる。賢い人間は害虫みた
いなやつらからは距離を置くものだ。そういう連中は大勢いるがね」
自分と波長の合わない人たちにあなたの人生から出て行ってもらうためには、どうすれ
ばいいだろう?
私はこんなことをしている。毎年一二月三一日になると、妻と私は、一枚のメモ用紙に
一人ずつ、「今後は付き合いをやめたい人たち」の名前を書いていく。
そしてそれを一枚一枚、もったいぶった仕草で投げ捨てる。だまされたと思って一度
やってみてほしい。気分が爽快になって心の健康に役立つ恒例行事である。
この続きは、次回に。
2024年11月8日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美