お問い合せ

書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑬

「自分は何を失っても大丈夫か」を考える

 

許容可能な損失の範囲で行動するためのもう1つの重要なポイントは、「自分は何を

失っても大丈夫か」「逆に何を失うことを危険だと思うのか」を自覚したうえで、

失うことを許容できない資源をなるべく危険に晒さないように着手することです。

実際には、何を失うことを許容できるか/できないか、というのは、事業の内容によって

決まるわけではなく、起業家によって異なり、また同じ起業家でも彼がどのようなライ

フステージや環境に置かれているかによって変化すると想定されます。

このように「許容可能な損失」に推定が人によって大きく異なること、それこそがエフ

ェクチュエーションのその後のプロセスの展開にとっても、重要な意味を持つことは、

後ほど確認しておきたいと思います。

 

・ 損失の許容可能性は自信や動機の強さに連動する

 

もしあなたが行動に移そうとするアイデアに対して、強い自信やモチベーションを抱い

ており、不退転の覚悟で取り組もうとしているならば、その分だけ許容可能な損失も

大きくなるでしょう。後にも述べますが、そうした状況ではうまくいかない場合の損失

可能性よりも、行動しないことによって失われるもののほうが大きいと判断されるため、

結果が不確実であって行動することのリスクを取ることができます。だからといって、

ここでは自分のアイデアに対して熱意が強く、許容可能な損失が大きいことは、その分

一歩を踏み出す際の歩幅が大きくなり、より速く進むことができるという意味で、確か

に望ましいことといえるでしょう。

しかし、それ以上に重要なのは、自分自身の許容可能な損失を認識したうえで、その範囲

を超えないように、歩幅をコントロールした一歩を踏み出すことです。仮に、自分のア

イデアの価値に確信が持てない場合には、無理やり自分を鼓舞(こぶ)して熱意を持とう

とする必要はありません。だからといって行動を起こさずに逡巡することなく、その分

だけ小さな歩幅で一歩を踏み出すことが、エフェクチュエーションのプロセスを前に

進めるうえでは何よりも重要です。

そうした小さな一歩というのは、たとえば自分の考えているアイデアを、気軽に相談で

きる誰かに話してフィードバックをもらう、といったすぐに着手可能なもので構いません。

どのような行動であれ、それを起こすことで得られる結果は、少なくともそのアイデア

の可能性や、自分の手持ちの手段について理解を深めるきっかけになることでしょう。

 

・ 許容不可能な損失はパートナーシップの可能性を示唆する

 

どのような種類の資源を失うことを危険だと思うかが人によって大きく異なるという

事実は、その後のパートナーシップの可能性を示唆するという意味でも重要です。

単純化した例を挙げれば、チャレンジした事業の失敗により自己資金100万円を失うと

いう結果は、生活費ですら余裕のないAさんにとっては許容不可能である一方で、十分

な資産を持つBさんには許容可能な損失と見なされるかもしれません。逆に、成果の不

確実なスタートアップの立ち上げに多くの時間を費やすことは、時間のあるAさんには

許容可能でも、忙しいBさんにはとても許容できないかもしれません。

このように損失を許容できる資源が異なる二者がパートナーシップを構築することがで

きるならば、新しい事業の立ち上げに伴う資金と時間の損失のいずれが許容可能な範囲

に収まる可能性は高くなります。つまり、自分にとって許容できない損失が何かを自覚し、

それを許容できる誰かをパートナーとすることができるならば、不確実性に伴うマイナ

ス面の許容可能性をより大きくすることができるのです。


 

○ 逡巡

 

逡巡(しゅんじゅん)とは、決断できずにためらうこと、ぐずぐずすること、

しりごみすることです

 

この続きは、次回に。

 

2025年10月19日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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