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「新訳」 イノベーションと起業家精神 上-16

[第10章] アイデアによるイノベーション

  アイデアによるイノベーションは、ほかのあらゆる種類のイノベーションを

  全部合わせたよりも多い。

  10の特許のうち7つか8つは、この主のものである。

・あまりの曖昧さ

  アイデアは、イノベーションの機会としてはリスクが大きい。

  成功する確率は最も小さく、失敗する確率は最も大きい。

  この主のイノベーションによる特許のうち、開発費や特許関連費に見合うほど

  稼いでいるものは、100に1つもない。

  使った費用を上回る金を稼ぐものは、おそらく500に1つという少なさである。

  しかも、アイデアによるイノベーションのうち、いずれに成功のチャンスがあるか、

  いずれに失敗の危険があるかは誰にもわからない。

  アイデアによるイノベーションの予測が難しく、かつ失敗の確率が大きい原因は

  かなり明らかである。そもそもアイデアなるものが、あまりに曖昧である。

  起業家たる者は、いかにもろもろの成功物語に心惹かれようとも、単なるアイデア

  によるイノベーションに手をつけるべきでない。

  計画的に行動する起業家は、明確な目的意識をもって、本書で述べてきたイノベーションの

  ための七つの機会を分析する。

  それら七つの機会についてだけでも、個人として、あるいは企業として、さらには

  社会的機関として、なすべきことは十二分にある。

  とうてい利用しきれないほどある。

  しかもそれらの機会のそれぞれについては、いかにものごとを見、何を探し、

  何をなすべきかが明らかである。

  アイデアによるイノベーションを志すという人たちに対してできることは、数々

  の困難を乗り越えて成功し、かつ成長を続けていくためには、成功したあと

  何をしたらよいかを教えることぐらいである。

  すなわちベンチャー・ビジネスの心得である。

  起業家精神についてのもろもろの文献が、イノベーションそのものではなく、

  ベンチャー・ビジネスの設立とそのマネジメントの問題だけを扱っている理由も

  そこにある。

 

・その騎士道

  とはいえ、一国の経済が起業家的であろうとするならば、アイデアによる

  イノベーションに特有の騎士道をないがしろにしてはならない。

  アイデアによるイノベーションは、その数が膨大であるために、たとえ成功の

  確率は低くとも、新事業、雇用増、経済活動の大きな源泉となる。

  アイデアによるイノベーションは、いわばイノベーションと起業家精神の原理と

  方法の体系における付録である。

  しかしそれは、高く評価され、報いられなければならない。

  それは、社会が必要とする資質、すなわち行動力、野心、創意を代表する。

  アイデアによるイノベーションを促すうえで社会がなしうることはほとんどない。

  理解しえないものを奨励することはできない。しかし少なくとも社会は、そのような

  イノベーションを邪魔したり、罰したり、困難にしたりしてはならない。

  絶対にしてはならない。

 

この続きは、次回に。

 

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