[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法⑩
3 トップ・マネジメント・チームの構築
市場において、しかるべき地位を確立し、しかるべき資金調達と財務システムを確立する。それにもかかわらず、数年後、深刻な危機に陥ることがある。まさに確立した事業体として成功し、成人したかに思われたそのときに、理解できない苦境に立つ。製品は一流、見通しも明るい。しかし事業は成長しない。収益や財務体質などの重要な分野で成果があがらない。
○ トップ・マネジメントの欠落
原因はつねに同じである。トップ・マネジメントの欠落である。企業の成長が、少人数でマネジメントできる限界を超えてしまった結果である。今や、トップ・マネジメント・チームが必要である。
○ 対策
対策は簡単である。トップ・マネジメント・チームが必要となる前に、前もって構築しておくことである。まず初めに、創業者自身が、事業にとってとくに重要な活動について、主な人たちと相談しなければならない。存続と成功がかかっている活動は何か、何が重要な活動かについては、異論はないはずである。もし意見の違いや対立があるならば親権に検討しなければならない。
あらゆる組織に共通する重要な活動は、二つしかない。人の管理と資金の管理である。
次に、創業者をはじめとする主な人たちの一人一人が、「自分が得意とするものは何か。ほかの人たちが得意とするものは何か」を考えなければならない。このときも、それぞれが得意とするものについては、考えが一致するはずである。一致しない点については、すべて検討の対象として取り上げなければならない。
次に「それぞれの強みに応じて、いずれの活動を担当すべきか。誰がどの活動に適しているか」を考えなければならない。こうしてようやく、トップ・マネジメント・チームが構築される。創業者といえでも、人事が自分に適した活動でなければ、手を出さないように自制しなければならない。
最後に、重要な活動のすべてについて、目的と目標を定めなければならない。製品開発、人事、資金のいずれにせよ、重要な活動に責任を負うことになった全ての人に対し、「何を期待できるか。何に責任を負ってもらえるか。何をいつまでに実現するつもりか」を問わなければならない。
これはマネジメントの初歩にすぎない。
○ 準備が必要
当初は、このトップ・マネジメント・チームを非公式のものにしなければならない。1年ほど待つべきである。その間、チーム全員が、それぞれの仕事、協力の仕方、互いの仕事をしやすくするために行わなければならないことなど、多くのことを学ぶ必要がある。
したがってベンチャー・ビジネスは、トップ・マネジメント・チームを必要とするはるか前に、構築しておかなければならない。ワンマンによるマネジメントが機能せず、失敗するはるか前に、そのワンマン自身が、同僚と協力すること、人を信頼すること、さらには、人に責任をもたせることを学ばなければならない。創業者は、付き人をもつスターではなく、チームのリーダーになることを学ばなければならない。
この続きは、次回に。