[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法⑮
3 専門市場戦略
専門市場戦略は市場についての専門知識を中心に構築される。
〇 変化による機会
専門市場戦略のための市場は、「この変化には、ニッチ市場をもたらすいかなる機会があるか。他に先がけて、それを手に入れるには何をなすべきか」と問うことによって手にすることができる。
〇 最大の敵は自らの成功
専門市場の地位にも専門技術の地位と同じように限界がある。専門市場の地位にある者にとって、最大の敵は、自らの成功である。専門市場が大衆市場になることである。
[第18章]ニッチの占拠
隙間(ニッチ)の占拠を目指す戦略は、目標を限定する。
ニッチ戦略は、限定した領域で実質的な独占を目指す。
ニッチ戦略は競争に免疫になることを目指し、そもそも調整を受けることさえないようにする。
ニッチ戦略に成功しても名をあげることはなく、実をとるだけである。それらの企業は目立たず優雅に暮らす。実際、ニッチ戦略の成功のポイントは、製品としては決定的に重要でありながら、ほとんど目立たず、誰も競争しにこない点である。
このニッチ戦略は、三つある。そのそれぞれが、特有の条件、限界、リスクを伴う。
(1) 関所戦略
(2) 専門技術戦略
(3) 専門市場戦略
1 関所戦略
〇 関所戦略が成立する条件
市場規模は、最初にその場を占めた者が占拠できるほどの小ささでなければならない。それは、どこか一社だけが占拠でき、しかも、あまり小さく目立たないために、競争相手が現れようのない真に生態学的なニッチでなければならない。
〇 限界とリスク
関所戦略は、ひとたび目標を達成してしまえば、すでに成熟期にある。最終需要者の成長と同じ速さでしか成長できない。ところが、需要の減退は急速に起こりうる。需要を満たすほかの方法が発見されるならば、ほとんど一夜で陳腐化する。
2 専門技術戦略
○ 自らが基準となる。
○ 揺籃期でのスタート
専門技術による起業家戦略を使うためには、どこかで何か新しいこと、つけ加えるべきこと、あるいはイノベーションが起こってくれなければならない。
○ 不断の努力
専門技術によるニッチ市場が偶然見つかることはほとんどない。いかなる場合もイノベーションの機会を体系的に探すことによって、はじめて市場を見つけることができる。そこで起業家は、ユニークな支配的地位に就くことのできる専門技術を開発できそうな分野を探す。
○ 戦略の条件
戦略の条件としてまず第一にいえることは、新しい産業、市場、傾向が現れたとき、専門技術による機会を体系的に探さなければならないということである。ありがたいことに、そのための専門技術を開発する時間は十分にある。
第二にいえることは、独自かつ異質の技術をもたなければならないということである。
専門技術によるニッチ市場を確立した企業は、顧客と取引先のいずれからも脅威を受けることがない。彼らは技術的、気質的に異質なものに、あえて入り込んでこようとはしない。
第三にいえることは、専門技術によるニッチ市場を占拠した企業は、絶えずその技術の向上に努めなければならないということである。つねに一歩先んじなければならない。まさに自らの手によって、絶えず自らを陳腐化していかなければならない。
この続きは、次回に。