チェンジ・リーダーの条件⑩
〇 無給だからこそ満足を求める
かつてNPOは、ボランティアは無給だから指示できないと言っていた。
ところが今日では、ますます多くのNPOが、ボランティアは無給だからこそ、大きな貢献をなし、仕事に満足してもらわなければならないとしている。
ボランティアの中核が、善意のアマチュアから、スペシャリストとしての無給のスタッフに移行したことは、NPO自身にとって大きな変化であるだけでなく、企業にとっても大きな意味をもつ。
実は、ボランティアの役割の変化は、ボランティア自身から発している。
今日のボランティアは、そのますます多くが、マネジメントの仕事や専門的な仕事に従事する教育を受けた人たちである。たとえば、彼らは50代の退職直前の人たちである。
あるいは30代半ば、40代のベビーブーマ世代の人たちである。
彼らは、単なる助手であることには満足しない。
生計の資のための仕事において、彼らは知識労働者である。
社会貢献のための仕事、すなわちボランティアの仕事においても、知識労働者たることを浴する。
NPOが、彼らを引きつけ、とどまらせるには、彼らの能力や知識を活用しなければならない。
意義ある成果をあげる機会を提供しなければならない。
○ 無給スタッフが必要とするもの
彼ら無給のスタッフが求めているものは何か。
いつでも去ることのできる彼らをとどまらせるものは何か。
彼らが求めているものは、第一に、活動の源泉となるべき明確な使命である。
彼らボランティアという新しい種類の人たちが、第二に必要としているものが訓練である。
訓練、訓練、そして訓練である。
ありがたいことに、すでに古参になったボランティアに再びやる気を起こさせ、引き止めておくうえでもっとも効果的な方法が、彼ら古参の能力を認め、それを新人教育に使わせることである。
ボランティアとしての知識労働者が、第三に求めている者が責任である。
特に、自らが目標を検討し設定する責任を与えられることである。
彼らは、自らの仕事や組織全体に影響を与える意識決定に際して、意見を述べ、参画することを求める。しかも彼らは、実績によって証明された自らの能力に応じて昇進することを求める。すなわち、より困難な仕事と責任を求める。
これが、NPOの多くが、ボランティアに階層を設けている理由である。
ボランティアの活動すべてを支えるものが責任である。
彼らボランティアとしての知識労働者は、自らの成果が、少なくとも年に1回、事前の目標に照らして評価されることを求める。しかも彼らは、成果をあげていない者は、能力に見合った別の任務に移すなど、その任務を解くことを求める。
○ やりがいの問題—–企業への警告
ボランティアから有給の専門スタッフへという変化は、アメリカ社会におけるもっとも重要な変化である。
今日、家族やコミュニティの崩壊や解体、価値観の喪失が言われている。
大きな問題である。しかし今日、NPOが、これに抗する強力な流れをつくりつつある。
NPOが、コミュニティの絆を生み出し、行動する市民性や社会的な責任や、価値に対する献身をもたらしつつある。
ボランティアのNPOへの貢献と同じように、NPOのボランティアに対する貢献が重要な意味をもつ。まさにそれは、宗教、教育、福祉など、NPOがコミュニティに提供するサービスと同じように重要である。
この変化は、企業にとっても、明快な教訓となる。なぜならば、知識労働者の生産性を向上させることは、アメリカのマネジメントにとって、今日最大の課題だからである。
NPOが、それをどのように行うべきかを教えている。
それは、使命を明らかにし、人材を的確に配置し、継続して学習を施し、目標によるマネジメントを行い、要求水準を高くし、責任をそれに見合うものとし、自らの仕事ぶりと成果に責任をもたせることである。
ボランティアの仕事の性格が変化したことには、企業への明確な警告が込められている。
私が教えている経営幹部向けの講座には、銀行、保険、大規模小売チェーン、航空宇宙関連会社、コンピューター関連メーカー、不動産開発会社など、いろいろな企業の人たちがいる。そのほとんどが、教会や母校の理事会、スカウト、YMCA、地域の共同募金、オーケストラなどでボランティアとして働いている。
理由を聞くと例外なく、「企業の仕事はやりがいが十分でなく、成果や責任が十分でない。
使命も見えない。あるのは利益の追求だけ」との答えが返ってくる。
この続きは、次回に。