チェンジ・リーダーの条件-22
○ 自己管理によるマネジメントに必要なもの
目標によるマネジメントの最大の利点は、自らの仕事ぶりを自らマネジメントすることが可能になることにある。
適当に流すのではなく、最善を尽くすという強い動機がもたらされる。
より高い目標とより広い視野がもたらされる。
したがって、たとえ目標によるマネジメントが、一人ひとりの人間の方向づけや仕事の一体性のためには不要だとしても、自己管理によるマネジメントのためには必要である。
目標によるマネジメントの最大の利点は、支配によるマネジメントを自己管理によるマネジメントに代えるところにある。
今日アメリカでは、自己管理によるマネジメントが優れた望ましいものであるということに、ほとんど異論はない。
最近流行の「末端での意思決定」や「業績による報酬」という手法の根底にも、自己管理によるマネジメントの考え方である。
自らの仕事ぶりを評価測定するための情報をもつことが必要である。
所期の成果を達成するために必要な措置をとれるよう、情報は早く得ることが必要である。
しかもそれらの情報は、彼らの上司ではなく、彼ら自身に直接伝わることが肝要である。
情報は、自己管理の道具手あって、上からの管理の道具であってはならない。
いまや、仕事と成果を評価測定するための情報が容易に入手できるようになったため、効果的な自己管理が可能となった。
もしそれらの情報が、本当に自己管理のために使われるならば、マネジメントの仕事と成果は大きく進歩するに違いない。
しかし、もし上からの管理のために使われるならば、せっかくの情報も、働く者の士気を損ない、彼らの成果を著しく低めることになる。
このことは、仕事の基準を低く設定すべきであるとか、管理は不要であるということではない。
逆に、自己管理こそ、高い仕事の基準を設定する。
マネジメントたる者は、自らの成果について全面的に責任をもつ。
しかし、それらの成果をあげるための仕事は、彼ら自らが、そして彼ら自らのみが管理する。
もちろん、組織が、いかなる行動と方法を不合理、素人的、不健全として禁じているかは明確に理解しなければならない。
しかし許された枠のなかでは、何をなすべきかは彼ら自身が自由に決定する。
人は、自らの仕事についてあらゆる情報をもつとき、初めてその成果について全責任を負うことができる。
○ 報告と手続きに支配されるな
自己管理によるマネジメントを実現するには、報告、手続き、書式を根本的に見直すことが必要である。
報告と手続きは道具である。だが、これほど誤って使われ、害をもたらすものはない。
報告と手続きは、誤った使い方をされるとき、道具ではなく支配者となる。
報告と手続きの誤った使い方は三つある。
第一に、よく見られる誤りとして、手続きを規範とみなす。
第二に、手続きを判断の代わりにする。
第三に、もっともよく見られる間違った使い方は、報告と手続きを上からの管理の道具として使うことである。
報告と手続きの数は最小限にとどめて、時間と労力を節約するためにのみ使うべきである。
それは、可能なかぎり簡明なものにとどめておくべきである。
あらゆる企業が、現在使っている報告と手続きのすべてについて、本当に必要かどうかを定期的に検討する必要がある。
少なくとも五年に一度は、すべての書式について見直しを行わなければならない。
報告や手続きは、重要な領域で成果をあげるうえで必要なものに限定すべきである。
すべてを管理しようとすることは、何も管理しないに等しい。
成果に直接関係ないことを管理することは、人を誤って導く。
最後に、報告と手続きは、記入する者自身にとっての道具でなければならない。
記入者を評価するための道具にしてはならない。生産に関する書式への記入のでき栄えによって、人を評価してはならない。
○ 個人の目標と全体の利益を調和させる原理
今日必要とされているものは、一人ひとりの人間の強みと責任を最大限に発揮し、彼らの視野と努力に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち、一人ひとりの目標と全体の利益を調和させるためのマネジメントの原理である。
これらのことを可能とする唯一のものが、目標と自己管理によるマネジメントである。目標と自己管理によるマネジメントの原理だけが、全体の利益を、一人ひとりの目標にすることができる。
この原理が、外からのマネジメントに代えて、より厳しく、より強く、より多くを要求する内からのマネジメントを可能にする。
この原理だけが、指示や命令ではなく、仕事のニーズによる行動への意欲を起こさせる。
誰かの意思によってではなく、自ら行動しなければならないという自らの決定によって行動させるようになる。
言いかえるならば、自由な人間として行動させる。
目標と自己管理によるマネジメントこそ、まさにマネジメントの哲学と呼ぶべきものである。
この原理は、マネジメントの概念そのものを基盤とし、マネジメントのニーズと障害についての分析からスタートしている。
人間の行動や動機づけについての洞察を基礎としている。
企業の規模を問わず、あらゆるレベルのあらゆる人間に適用することができる。
それは、成果の達成を確実なものにするために、客観的なニーズを一人ひとりの人間の目標に変える。真の自由を実現する。
この続きは、次回に。