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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㊱

第16章   成功するリーダーに共通する「話法」とは

 

日本でも最近は、リーダー・企業の発信する「ビジョン」に注目が集まっています。

ビジョンとは「その企業が何を目指しているのか」の将来像を示すことです。

「優れたリーダーには、優れたビジョンが重要」とは、よく言われるところです。

他方で、「では優れたビジョンとはどういうものか」と聞かれると、答えに窮する方が多いのでは

ないでしょうか。何となくの感覚はあるかもしれませんが、「これが優れたビジョン」というはっきり

した定義があるわけではありません。

世界の経営学ではこの「リーダーのビジョン」という曖昧な概念に対しても、心理学や統計分析を

使った多くの研究があり、そこから色々な知見を得ているのです。

ビジョン研究は膨大で、その全貌を本書で書き切ることは不可能です。

そこで本章は、私が独断で「ビジネスパーソンに有用かもしれない」と考える二つの切り口に焦点を

絞って、最先端の経営学の知見をご紹介します。それは「ビジョンの特性」と「ビジョンの伝え方」です。

 

✔️ 「リーダーのビジョン」に求める特性とは

 

リーダーのビジョンの重要性は、色々なところで語られています。

例えば「20世紀最高の経営者」と言われたGEの元CEO(最高経営責任者)ジャック・ウエルチ氏は、

部下を評価する際に「業績は優秀だが自分のビジョンに共鳴しない部下」と「業績はイマイチだけれど

ビジョンに共鳴している部下」であれば、後者を会社に残し再度チャンスを与え、前者にはすぐにGEを

去ってもらっていたというのは有名な話です。

そして、優れたビジョンが企業の業績によい影響を及ぼす可能性も、多くの研究で示されています。

今でもよく研究者に引用される研究は、米メリーランド大学のロバート・バウムたち三人が1998年に

「ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー」発表した論文です。

この研究でバウムたちは、米国木工加工企業183社のCEOとその従業員アンケート調査をし、構造方程式

モデリングという手法で統計分析をしました。

その結果、やはり「CEOが優れたビジョン持っている企業ほど、事後的な成長率が高くなる」という

結果を得たのです。

ここで当然ながら、では「優れたビジョン」の基準は何かということが気になります。

ビジョン研究では、その評価軸には「ビジョンの中身(Vision Content)」と「ビジョンの特性(Vision

Attribute)」があるとされています。

本稿では、ビジョンの特性の方に注目しましょう。

この1998年の論文で、バウム達は過去の経営学の研究を精査した結果、優れたビジョンには六つの

特性があると指摘しました。

それは、 ① 簡潔であること、② 冥界であること、③ ある程度抽象的であること、④ チャレンジングな

こと、⑤ 未来志向であること、⑥ ぶれないこと、です。

このうち④〜⑥はある意味当たり前のことですので、ここでは①〜③に注目しましょう。

 

✔️ LIXILのビジョンは模範的

 

日本のビジネスリーダーとしていま注目されているのは、例えばLIXILグループの藤森義明氏でしょうか。

現在のLIXILグループのビジョンは、2011年に藤森氏がCEOに就任したときに掲げられました。

それは「優れた製品とサービスを通じて、世界中の人々の豊かで快適な住生活の未来に貢献する」と

いうものです。

このLIXILのビジョンは、まさに先の①〜③の条件を満たしていると私は評価します。

まず簡潔なので、①には適合します。「世界の」という言葉でグローバル重視を明確にし、「快適な

住生活」で広い意味での事業ドメインをはっきりさせているので、②の「明快さ」も当てはまるでしょう。

さらに③の「抽象性」についても、ちょうど良いのではないでしょうか。

例えば「システムキッチン分野で業界売り上げ1位を維持します」と言ったビジョンでは、具体的すぎて

柔軟性が失われます。逆に「お客様の声に真摯に応えます」では、抽象的すぎて部下もこの会社が何を

目指しているのか分かりません。

このように一見変哲のないLIXILのビジョンですが、なかなかよく練られているように私は思います。

 

さてバウムたちの研究には、もう一つポイントがあります。

それは「CEOの従業員のコミュニケーションの重要性」です。

この論文では、前述した分析結果に加えて「CEOと従業員のコミュニケーションが高まるほど企業の

成長性が高まる」という結果も得られています。

もちろんこれは、ある意味当たり前のことでしょう。

リーダーと部下のコミュニケーションが重要なのは、今に始まったことではありません。

ビジョンを社員に浸透させるには、経営者が自らの声で語りかけることが何より大事なはずです。

それは当たり前として、では「どのような伝え方がいいのか」に注目した研究はあるのでしょうか。

実は「ビジョンの伝え方」についても、経営学では色々と研究されています。

今回はその中でも、リーダーの発する「言葉の選び方」に注目しましょう。

 

 

この続きは、次回に。

 

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