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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㊳

Part8  同族企業とCSRの功罪

 

第17章  日本最強の後継社長は「婿養子」である

 

本章では、企業ガバナンスについて経営学の知見を紹介していきます。

日本で、企業ガバナンスというと、多くの方が「同族経営の弊害」を思い浮かべるのではないでしょうか。

実際、最近は「同族経営」に今まで以上に注目が集まっている印象があります。

少し前なら大王製紙事件、そして2015年は大塚家具のお家騒動といったように、同族企業には常に

ウエットな印象がつきまといます。

しかし、これらはあくまでメディアがつくったイメージです。

実は世界の最先端の経営学(とファイナンス分野の研究)では、むしろ統計分析を使った実証研究の

成果から、同族企業は業績が悪くないどころから、非同族企業よりも業績が高くなる可能性も主張

されているのです。

 

今回は、世界の同族経営の研究成果について紹介しながら、日本への示唆を探っていきましょう。

 

✔️ 同族企業は、日本だけに多いのではない

 

まずみなさんに知っていただきたいのは、「同族企業というのは、日本だけに多い企業形態という

わけではない」ということです。

同族経営が経済活動に占める比率が高いのは、多くの国で共通することなのです。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

日本はどうでしょうか。日本の同族企業について最も包括的なデータ分析をしたのは、同族企業研究の

第一人者である加アルバータ大学のヴィカス・メロトラと、著名学者である同じアルバータ大学の

ランドール・モークが、京都産業大学の沈政郁(シム・ジョンウッ)准教授らと共に、2013年にファイ

ナンス分野のトップ学術誌である「ジャーナル・オブ・フィナンシャル・エコノミクス」(JFE)に発表

した論文です。

同論文では、2000年時点で日本の上場企業1367社のうち、約三割が同族企業であることが示されて

います。

これらの研究はそれぞれで「同族企業」の定義が微妙に違いますので、単純な比較はできません。

しかし、同族企業の比率が高いのが日本だけでないのは間違いないといえるでしょう。

 

✔️ 同族企業は業績も悪くない

 

さらに重要なのは、「同族企業の業績は、非同族企業よりも優れている」という研究結果が多く出て

いることです。

例えば先のアンダーソンの論文では、米S&P500の403社のデータを使った統計分析をし、同族企業の

方が非同族よりもROA(総資産利益率)が高いことを示しています。

先の沈准教授の日本企業の研究でも、やはり同族企業のほうがROAや成長率などが高い傾向が明らかに

なっています。

オランダ・エラスムス大学のマルク・ファン・エッセンら4人が2015年「コーポレート・ガバナンス:

アン・インターナショナル・レビュー」に発表した論文では、過去に発表された55本の実証研究を

まとめたメタ・アナリシスによって、「米国の上場企業では、同族企業のほうが非同族企業よりも

業績が良い」という総合的な結論を得ています。

 

✔️ なぜ同族企業の業績は良くなるのか

 

なぜ同族企業の業績は、非同族企業よりも良くなったり、悪くなったりするのでしょうか。

経営学では主に三つの説明があります。

 

説明(1) まず、創業家が大口株主であることのメリットです。これは主にエージェンシー理論(Agency

Theory)という考えからくるものです。

この理論では、「経営者は、企業の所有者である株主に代行して、経営をしている」と考えます(詳しくは、

「経営学ミニ解説8」をご参照ください)。

しかし「株主の利害」と「経営者の利害」が一致するとは限りません。

例えば、経営者は利益よりも企業規模を大きくすることに興味があったり、あるいは自身の名声を

高めるために、株主が望まない過剰投資やリスクの高い企業買収に走ったりすることがあり得ます

(エージェンシー問題といいます)。しかし、同族企業には創業家という大口株主がいますので、彼らが

「もの言う株主」となって経営者の暴走を抑えることができる、という主張です。

 

説明(2) 創業家の心理・感情的な側面に注目する説明もあります。

経営学では、社会情緒資産理論(Socio-emotional wealth theory)として知られています。

例えば同族企業では、創業家出身の経営者は「企業と一族を一体として見なす」ことが多くあります。

このような企業は目先の利益ではなく、企業(=家族)の長期的な繁栄を目指すので、結果としてブレの

ないビジョン・戦略をとりやすい、という主張です。さらに、創業家の人脈や名声、その企業だけに

重要な経営ノウハウなど、「創業家でないと持ち得ない経営資源」も貢献するかもしれません。

実際、近年メディアを騒がせるような、大胆でブレのない戦略をとっている企業には、同族企業が

目立ちます。例えばアイリスオーヤマは、社長の大山健太郎氏以下、経営陣のほとんどが同族で固め

られています。

ロート製薬は、1999年に創業家出身の山田邦雄氏が社長に就任以来、「肌ラボ」など化粧品分野への

進出が成功し、飛躍しています。

サントリーの米ビーム社買収という大胆な一手も、当時の社長が同族出身の佐治信忠氏だったからこそ

可能だったのかもしれません。

 

説明(3) では、同族企業のマイナス面は何でしょうか。

それはやはり、「資質に劣る経営者が創業家から選ばれてしまうリスク」になります。

同族にこだわらなければ社内外の優秀な人材に経営を任せられるのに、その可能性を放棄しているわけ

です。この場合、先ほどの「もの言う株主」は逆効果になり得ます。

すなわち、(資質に劣る)経営者と大口株主が共に同族であれば、その株主は身内の経営者に甘くなり

がちだからです。

 

このように同族企業には、理論的にプラス面とマイナス面の両方があります。

要は「エージェンシー問題を防ぎ、ブレのない戦略をもたらす」プラス面と、「力の劣る経営者を

トップに据えてしまうかもしれない」マイナス面の、トレードオフがあるわけです。

今も多くの同族企業の経営者の方々が後継問題に悩まれているはすですが、それは理論的にはこの

「同族企業のトレードオフ」が背景にある、といえます。

逆に言えば、このトレードオフを解消できれば、その同族企業は最も業績が高くなるパターンを手に

入れることができる、ということになります。では、トレードオフを解消する手段はないのでしょうか。

実はあるのです。それも、日本特有の仕組みとして存在します。

 

それは、日本の婿(むこ)養子制度です。

 

 

この続きは、次回に。

 

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