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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 -52

Part11  海外経営大学院の知られざる実態

 

第24章  ハーバードを見て、米国のビジネススクールと思うなかれ

 

本書の最後となるこのPart11(第24章から26章)では、これまでの学術的な知見を紹介する章とは

スタンスを変えて、私の米国時代の経験も交えながら、海外のビジネススクール事情について、

日本ではよく知られていない重要な側面を紹介していきたいと思います。

なお、この三つの章で述べることは、欧州や、最近ならアジアの多くのビジネススクールでも当て

はまる部分も多いのですが、念のため米国に限定した話とします。

 

✔️ ドラッカーを読まない米国の経営学者

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

私が申し上げたいのは、ドラッカーを読まなくても、コリンズを知らなくても、米国のビジネス

スクールの教授は務まる、という事実です。なぜこのような事態になるのでしょうか。

その最大の理由は、第1章でも述べたように、まず経営学の科学化が進んでいることにあります。

全米中の経営学者が、科学としての経営学を目指して、知の競争をしているからだと私は考えています。

さらにいえばその背景には、「知の競争」を促す巧みな米国の大学の仕組みがあります。

まずは、そのあたりを解説しましょう。

 

✔️ 米国の「研究大学」はほんの一握り

 

米国には2013年時点で2774の四年制大学があります。

しかし実は、そのうちで「研究大学」と呼ばれる大学はほんの一握りです。

そして日本でも比較的名の知られているような大学は、研究大学であることが多いのです。

米国にはAAU(Association of American Universities)という、選ばれた研究大学だけが所属できる

団体があります。日本の多くの方はご存知ないと思いますが、米国ではこのAAUのメンバーになる

ことが研究大学にとって大きなステータスなのです。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

このAAUの基準は厳しく、大学全体の研究パフォーマンスが悪いとメンバーから外されてしまいます。

実は最近、ネブラスカ大学とシラキュース大学がAAUから外されてしまい、これは関係者の間では

大きな話題となりました。

米国では、このAAUメンバー大学に加えて、今は入っていないものの中長期的にはAAU入りを目指して

いるような大学が数十ぐらいあり、私の肌感覚なので正しい数字ではないのですが、おそらく全体で

百数十ぐらいの大学が「研究大学」といえるのではないかと思います。

逆にいえば、残りのほとんどの大学は「教育大学」に近く、規模も小さいところがほとんどです。

 

✔️ 「知の競争」をする経営学者に、ドラッカーを読むヒマはない

 

念のためですが、私は研究が上で、教育が下とか、そんなことは言っていません。

これは単に、大学の目的が違うのです。私は米国の素晴らしさのひとつは、この裾野の広い教育

システムであり、とくに教育を重視する小規模のカレッジが多くあることにあると考えています。

これでお分かりいただけたと思いますが、日本でも知られているような大学の多くは「研究大学」で、

それらは大学同士で熾烈な「研究の競争」をしているのです。

そのために、研究大学にいる教授は「研究という競争世界」で勝つことが最優先の義務となります。

そして、米国で研究の戦いで勝つとは、優れた学術誌に論文を掲載するということに他なりません

(理系分野の場合はグランド[研究補助費]をとる、とう競争も加わります)。

そして、それはビジネススクールでも同じです。米国の研究大学のビジネススクールに所属する

教授は、だからこそできるだけ科学的な方法で研究し、上位の学術誌に論文を掲載するために努力

することが求められるのです。

 

✔️ ビジネススクールにいる「研究者」と「教育者」

 

さてそうは書いたものの、実は話はもう少しややこしくなります。

なぜなら、このような研究重視の風潮にはビジネススクールによって温度差があるからです。

実は米国のビジネススクールには、大学の違いと同じように、「研究中心の教授(すなわち経営

学者)」と「教育中心の教授」がいます。

前者は、まさに本書で紹介してきたような、博士号を持ち、社会科学としての経営学を推し進め

ようとしている人たちです。もちろん授業も教えますが、上述したように主戦場は研究であり、

優れた学術誌に論文を載せることです。

後者は、例えば博士号は取ったけれど研究よりも教育に力を入れたくなった教授や、あるいは

実業界やコンサルティング業界で成功を収めてその経験を買われて教授になられた方などです。

そしてAAUメンバーのような大学ではマジョリティーはいうまでもなく、前者の「研究中心の

教授」となります。もちろん教育重視の教授もいますが、そういう方々は少数派であったり、

例えば「クリニカル・プロフェッサー」と言った特殊な肩書きが付いたりすることが多くなります。

しかしながら、私の知る限り、例えばブルームバーグビジネスウイーク誌のMBAランキングなどで

上位60〜70位ぐらいまでに入るようなビジネススクールの中でも、少なくとも2校、例外があります。

一つは、バブソン・カレッジです。同校は、日本人では例えばイオングループの岡田元也CEO(最高

経営責任者)やトヨタ自動車の豊田章男社長を輩出しています。

バブソン・カレッジは「カレッジ」と名の付く通り規模の小さい大学ですが、特にPART9で紹介

したようなアントレプレナーシップ(起業論)に特化した教育をほどこしており、この分野ではまさに

「総本山」ともいえる位置付けにあります。

それゆえに米国の「経営学教育界」では極めて高い評価を得ています。

したがって、この大学では教授陣のほぼ全員が、研究以上に「優れた教育」をすることが義務化

されています。

そしてもう一つの例外が、実はハーバード大学なのです。

 

 

この続きは、次回に。

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