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危機の時代 ジム・ロジャース ㉒

第6章 世界はどこへ行くのか

 

・混迷する世界の行方

 

危機に震える世界は、今後どこに向かうのか。

大統領選を控える米国、景気の落ち込みが深刻な中国、英国が離脱する

EUの今後など、注目すべきポイントは数多い。

 

新型コロナウイルスのパニックが起きるまで、米国人は、リーマン・ショックを

超える危機がくるというシナリオは非現実的だと思っていた。

米国は景気を下支えするために巨額の減税を実施し、中央銀行であるFRBは

たくさんのお金を印刷し続けている。

この結果、株高が長期的に続いた一方で、米国は史上最大の赤字を抱える

ようになっている。誰かがいつかこのツケを支払わなければならない。

新型コロナウイルスの問題が起きなくても、米国経済の崩壊は迫っていたのだ。

 

それでは2020年11月の米国の大統領選はどうなるのか。

 

歴史上、現職の大統領が敗北することは非常にまれだ。

敗北することもあるが、滅多にない。

現職の大統領は選挙に勝つために、多くのお金を使うことができるので

有利な立場にある。

野党は資金面で不利な場合が多い。このため、通常なら現職の大統領が

再選を勝ち取る。ほぼ常に大統領は再選するので、トランプが勝利する

可能性が極めて高いと思われていた。

しかし、経済危機が現実になったことで、状況は変わった。

 

トランプの危機対応は上手くいっていない。

経済が悪くなると現職大統領は選挙で不利になる。

もちろん今でも私はトランプが勝つ可能性があると思っているが、選挙までに

経済が悪化し続ければ、敗北する可能性もあるだろう。

 

・ブレグジットは英国を苦しめる

 

欧州に目を転じよう。

ブレグジット(EU=欧州連合からの離脱)を決断した英国の今後はどうなるのか。

繰り返しになるが、私は海外に対してオープンであることが、国を繁栄させる

うえで大事だと思っている。

私が英国民なら、ブレグジットに反対票を投じただろう。

欧州の状況を見ると、EUもさまざまな問題を抱えているが、通貨のユーロは

素晴らしいもので、自由貿易圏も経済にとっていいものだ。

しかしベルギーのブリュッセルにあるEU本部には問題がある。

それは悪夢だ。官僚主義で、情報が少なく、寄せ集めで、統制が取れていない。

 

EUの官僚たちは規制をどうするかについてばかり話し合っている。

英国がブリュッセルのEU本部の解体に投票できたなら、英国にとって

素晴らしいことだっただろう。

それは欧州全体にとってもきっと良かったはずだ。

それでも自由貿易圏に入っているのはいいことだ。

 

英国はEUに留まるべきだった。これから加盟国の間のEUから離脱しようと

する動きが強まるとしたら、ブリュッセルのあるEU本部の官僚的なやり方に

問題があることを認識し始めているからだろう。

ブリュッセルのEU本部は改革され、スリム化されるべきだ。

 

自由貿易圏は素晴らしいが、EUには官僚主義という課題がある。

幸か不幸か、英国はEUから離脱することを決めた。

それでも私は、ブレグジットが英国にとって良いことだとは思わない。

 

・国家が解体される可能性

 

ブレグジットは英国を解体する可能性さえある。

2016年の国民投票でEU残留を上回ったスコットランド。

スコットランドでは、英国からの独立を望む人が多い。

スコットランドには北海油田があり、独立派はそれを主要な財源と見なしている。

イングランドが石油なしで生きていくのはハードルが高い。

 

北アイルランドも同じ国民投票でEU残留を希望する人が離脱派を上回った

地域だ。北アイルランドは、今は南にあるアイルランドと別の国になって

いるが、両方ともEUに加盟していたのでスムーズな人やモノの行き来が

可能だった。だが、ブレグジットにより、さまざまな不都合が生じる可能性が

あるので、北アイルランドは英国を離脱し、アイルランドとの統合に向かう

可能性がある。

 

かつて北アイルランドでは、カトリック系住民とプロテスタント系住民が

互いに憎み合っていた、だが今は2020年。

両者の対立が激しかった時代とは異なっており、かつてと比べると統合の

障害は少ない。

なによりブレグジットにより、ヨーロッパ大陸の人々は、ロンドンを拠点に

ビジネスをしようと思わなくなるだろう。

「英国はEUから離脱する。だったら、フランクフルト、アムステルダム、

パリなどほかの都市でビジネスしよう」と思う人がきっとたくさんいる

はずだ。ロンドンは衰退するだろう。

スコットランドが石油を奪っていったら、英国に何が残るのだろう。

 

歴史を振り返ると英国は1つの国ではない時代が長かった。

イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは歴史的に

別々の国だった。

グレートブリテンおよびアイルランド連合王国として英国という国が

誕生したのは19世紀初めのことだ。

スコットランドが英国から離脱するなら、きっと北アイルランドは

アイルランドの一部になりたいと思うだろう。

チェコスロバキアがチェコとスロバキアに分裂して何かいいことがあったの

だろうか。ユーゴスラビアに何が起こったのか。

内戦でお互いを殺し合い、国土は荒廃し、国際的なプレゼンスも下がった。

もちろん英国に住むプロテスタントとカトリックの人々がお互いを殺し合う

ようなことはもはや起きないだろう。

それでも、国家が分裂することは経済にとっては決してプラスにはならない。

 

エチオピアには多くの民族が住んでいるが、連合体として挫折しており、

お互いが憎み合っている。

ソ連も崩壊して分裂し、誕生した国同士は対立している。

ロシアがジョージアに侵攻したほか、ロシアとウクライナも対立して、

紛争が起きた。

英国の政治家はブレグジットに成功し、「ついにやった」と喜んでいた。

不幸なことは、彼らは誰かに腹を立てていた。その相手がEUだ。

英国民はブリュッセルを非難し、自国の政治家を非難し、自分たちを

救うために誰かに投票する。

 

 

この続きは、次回に。

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