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日本型イノベーションのすすめ-③

第二章     日本文化に根ざしたイノベーション技法

 

1「革新」と「刷新」の違いを理解する

 

リーダーシップからイノベーションの時代へ

 

グローバル化が不可逆に進行し、環境が絶えず変化するなかで、企業家がこれまでの環境に安住することなく、経済メカニズムのもつ内発的モメンタムをふまえ、環境の変化に対して組織を能動的かつドライスティックに適応させることが、イノベーションであると捉えることもできるわけです。

イノベーションの議論は、日本社会を再生していくうえで、非常に重要であると思います。

 

問題の多い日本におけるイノベーションの議論

 

そもそもの問題は、イノベーションの定義の曖昧さです。

その典型は、安部元首相が長期戦略指針として策定を指示したことに発する「イノベーション25」です。

「イノベーション25」では、イノベーションについて

「イノベーション(innovation)の語源は、ラテン語の“innovare”(新たにする)(=“in”{内部へ}+“novare”{変化させる}とされています。

日本語では、よく技術革新や経営革新、あるいは単に革新、刷新などと言い換えられていますが、イノベーションとは、これまでのモノ、仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指します。

たとえば、内燃機関(エンジン)や半導体は、他の技術と組み合わさって自動車やパソコン・インターネットとして世に現れ、われわれの生活を大きく変えました。

これらは典型的なイノベーションの例と言えるでしょう」と説明しています。

しかし、広辞苑によると「革新」は「組織・慣習・方法などを変えて新しくすること」であるのに対し、「刷新」は「弊害を取り除いて事態を全く新しくすること」とあります。

英語には、innovationとrenovationという単語があります。

基本的な対応は、前者が革新で後者が刷新にあたります。

「革新」と「刷新」を併記することに疑問さえもたないイノベーションの議論も、同じように不毛なものになるのではないかと思います。

 

そもそも、イノベーションの定義とは

 

イノベーションという概念の生みの親ともいえる社会経済者のシュンペーターは、イノベーションにとって重要なのは、必ずしも新技術(発明)ではなく、既存の技術やアイディアといった物や力の新しい組み合わせ(シュンペーターはこれを新結合といっています)であり、かつ、それを実行することであるといっています。

イノベーションとは一般的にどのように定義すべきなのでしょうか。

簡単にいえば、イノベーションとは、「新たな価値を提供する新規・既存の技術/アイディアの組み合わせを考案し」、「それをモデル化し(ビジネスであれば、ビジネスモデルを明確化することであるし、社会であれば、妥当性のある新たな社会通念モデルとして明確化する)」、「そのモデルが社会(市場や組織)に受容される」という一連のプロセスであるといえます。

つまり、イノベーションは、社会(市場や組織)に受容されてはじめて成功したといえるものなのです。

そうであるとすれば、社会(市場や組織)に多様性が存在するかぎり、世界共通のイノベーションモデルの存在を期待することは難しいと考える方が自然なのです。

 

シュンペーターの新結合は、以下の五つとなっています。

①    新しい財貨、すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは

  新しい品質の財貨の生産。

②    新しい生産方法、すなわち当該産業部門において実際上未知な生産方式

  の導入。これは決して科学的に新しい発見にもとづく必要はなく、また

  商品の商業的取扱いに関する新しい方法をも含んでいる。

③    新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業部門が従来参加していな

  かった市場の開拓。ただしこの市場が既存のものであるかどうかは問わ

  ない。

④    原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。この場合においても、この

  供給源が既存のものであるか、――――単に見逃されていたのか、その

  獲得が不可能とみなされていたのか―――を問わず、あるいははじめて

  作り出されねばならないかは問わない。

⑤    新しい組織の実現、すなわち独占的地位(たとえばトラスト化による)の

  形成あるいは独占の打破。詳細は、シュンペーター著『経済発展の理論

  -企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究』(塩野谷

  祐一/東畑精一/中山伊知郎訳、岩波文庫、1977年)を参照ください。

 

故に、シュンペーターは、重要なのは、発明家でも経営者でもなく、企業家であると主張するわけです。

これが、現在の経営学におけるイノベーションや企業家精神の出発点です。

シュンペーターの時代にはすでに、偉大な発明の事態は終わりつつあったことを考えると、われわれの時代に、新しい単独発明=イノベーションという構図を求めることは、なおさら難しいのではないでしょうか。

そもそもシュンペーターが主張しているようにイノベーションは発明とは異なるのです。

発明絶対視の影響を引き継ぐ、技術偏重論は、依然として根強いものがありますが、グローバル化の進行のなかでは、多様性の許容と文化的視点の重要性が増していきます。

その一方で、一元化(普遍への収斂)の方向性を前提とする文明的な視点は、難しくなってきます。

現在の議論は、文明的視点と文的視点を混同している点を理解し、その差異と方向性の違いを認識すべきです。

この点に関しては、第六章で詳述します。

 

 

この続きは、次回に。

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