ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 4
第1章 ハウトウ・ドラッカー、その異色の発信「上役操縦法」
上役を過小評価するなかれ
ドラッカーが上役のマネジメントにおいてしきりと用いる〝効率的・効果的—
エフエクティブ〟という言葉の使い方である。
ドラッカーは、知識労働者の生産性に対しては主として効率的という言葉を用い、
肉体労働の場合の能率(エフィシエント)と使い分けている。
そして第1に、混迷期・激動期にある昨今、マネージャーたるものは
その行動を効率的にするため、あれやこれやと追わずに、何かに集中する、
何かを優先することが大切だという気持ちがいつも前提となっている。
第2は、効率的な行動とはひとつの習慣であるとドラッカーが指摘している点である。
つまり先天的なものではないから、学習によって習得できるという主張である。
〝操縦術〟に入る前に前提条件として、4つの〝操術心得〟をあげる。
第1は、上役といっても怪物—モンスターでもなければ天使—エンジェルでもない(日本風なら
鬼でも仏でもない)、斬れば赤い血の出る生身の人間であるといつも心得ること。
上役をごく普通の人間として見つめ、行動し、機能せしめる必要があるというのである。
第2は、上役は〝人の心を察してくれる人—マインド・リーダー〟などとユメユメ思うなかれということ。
部下であるあなたの気持ちなど察しているはずがない。
上役の心は上役自信のことで頭がいっぱいなのだ。
あなたにとってあたりまえのことが、上役にとってもあたりまえのことだろうと
思ったら、大まちがいだと強調する。
第3。心の中が自分のことでいっぱいであるのと同様、上役の〝時間〟も、
自分のことでいっぱいなのだ。
もう少し自分の話をきく時間を割いてほしいなどとゆめ思わぬことだ。
むしろ、部下に対して時間を使いすぎているとすら思っているのだから——-。
第4は、上役を過小評価(アンダーエスティメート)するなということ。
過大評価(オーバーエスティメート)ならまだ救いがあるという。
なぜなら、過大評価の結果は、幻滅が残るだけだから。
ところが上役を過小評価すると、どんなしっぺ返しを受けるかわからない。
気心が知れぬうちは、過小評価は絶対に禁物だ。
さて、上役操縦の第1要諦は、上役のタイプを見抜いて、スタイルに応じた対応を
せよということだ。まさにこれは、お釈迦様の「人をみて法を説け」の対機説法と
同じである。たとえば上役には、聴覚型(リスナー)と視覚型(リーダー)がある。
聴覚型というのは、部下の話を直接聞いてものごとを処理するのを好むタイプ—
フランクリン・ルーズベルトやトルーマンは聴覚型。
視覚型は、文書を見て処理するタイプ—–
ケネディやアイゼンハウワーは視覚型。
第2要諦。上役にはそれぞれアレルギー・ポイントというか痛点というか、
とにかく触れてはならない点がある。
上役に〝象〟を見せるかなれ
第3の要諦。上役を驚かすなかれ。
部下として何をしているのか、しようと試みているのか、したいのか—-を事前に
上役に知らせておかないと、誤解を生んだり、ミスを招いたり、命取りになりかねない。
第4要諦。上役の時間管理を忘れるな、自分で上役の時間管理をやれという。
第5要諦は、ホームワーク10倍の原則。準備には10倍の時間をかけろという原則だ。
最後は、いつ上役を見限ったらいいかという、きわめて現実的な上役からすれば
物騒なアドバイスをしてくれた。
上役を見捨てて社内の別のセクションに移るか、会社を変わるかを決意すべきケースは
3つあるという。
① 上役というのは、人格高潔であるべきである。
② 上役が無能だったら、見限れというもの。
要は、ピーターの法則のように、「無能のレベルにまで達し」、
能力的に伸びのとまった上役、行きどまりになった上役は見捨てていいというのである。
ドラッカーは、上役と部下は寄与・貢献関係にあるという。
すなわち、上役に自分が何をプラスすることができるか、逆に、
上役から自分が何をプラスになるものとして奪えるかという関係であると説く。
このバランスが崩れたら、上役であること、あるいは部下であることは
意味がなくなってしまう。
中年(ミドル・エイジ)ともなれば、自分の限界もわかってくるころ、限界がわかったら、
動きには気をつけるべきである。
この続きは、次回に。