ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 27
4 産業や市場の構造変化
産業や市場の内部にいる人間にとって、その構造は恒常的、安定的に見える。
しかし現実には、産業や市場の構造は、ちょっとした刺激によっていとも簡単に、
しかもあっという間に様変わりしてしまう。
しかしそんなときにこそ、大きなイノベーションの好機がある。
ドラッカーがこのイノベーションの〝源泉〟に関してうるさく言っていることがある。
それは、市場が短い期間に50%も拡大した場合は、必ずやそれまでの市場構造が
機能しなくなつており、構造変革が必要となっている。
だからチャンスはそこにあるのだ、ということである。
また、その場合のイノベーションは単純明快なものであり、あまり考えすぎたり、
できすぎたものではダメだとも言っている。
さらに一般の人々にとっては、産業や市場の変化に着目したこの種のイノベーションが
最もアプローチしやすいともいう。
人口の変化にチャンスを読みとる
さて、以上の4つは、市場や業界の内部における徴候だが、次は外部の徴候である。
5 人口構造の変化
これは総人口の増減のみならず、年齢構成、性別構成、雇用状況、教育水準、
所得階層等における人口の変化を指す。いずれも市場調査の項目ばかりである。
しかし、自ら外へ出て質問し、耳を傾ける者にとっては人口構成の変化こそが好機となる。
外部、つまり社会や経済といった領域における変化のきざしのなかで、だれの目にも
一番明らかなのが人口の動態的変化である、とドラッカーは言う。
しかもこれは、いつそれが現われるのかリードタイムもはっきりしており、予測しやすい。
高齢化であれ、ベビーブーマーであれ、さらにはベビーブーマーの大群が生み出す
第2次ベビーブーマーであれ、見通すことは容易である。
だから「素直な気持ちで現場に出かけ、よく見つめ、耳を澄まして聞く」者にとって、
それは「きわめて実り多く、また信頼しうる革新への機会」となるのである。
6 認識、すなわち、ものの見方・感じ方、受けとめ方の変化
ものの見方は量的に把握できない場合のほうが多い。
むしろ、量的に把握できるようになったころには遅すぎる。
しかし、認識の変化は抽象的なものではなく、感知できないものではない。
すぐれて具体的である。
ドラッカーを再び格言を引いて言う。同じ状態について、「コップに半分は入っている」と
言うこともできれば、「半分、空だ」と言うこともできる。
2つはたしかに物理的にも数学的にも違いはないが、人間にとって意味するところの差は
まことに大きい。人間の認識が「ハーフ・フル」から「ハーフ・エンプティ」に変わってきたとき、
そのときこそ革新の機会なのだ。
さらに、この源泉を活用するカギは、いつにかかってタイミングのよい見抜きこそ
決め手であるとドラッカーは説いている。
7 新しい知識の発見
知識に基づくイノベーションは、他のイノベーションと比べてリードタイムが最も長い。
新しい知識が出現してから、それが技術として応用されるまでには長い年月を要する。
さらに市場で製品やサービスとして花開くまでには、もっと長い時間が必要である。
こうした知識に基づくイノベーションこそが、まさにスーパースターであり、
また上手にやれば莫大な利潤を生み出すものである。
しかし同時に、これが最も困難なのだということもドラッカーは強調している。
ひとつの知識では、このイノベーションは成功しない。
それは、いろいろな知識の総合化によってのみ可能である。
この続きは、次回に。