ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 30
第4部 ドラッカーのキーワード20
14章 キーワードと名言から探る発想と思想
● ドラッカー名言録その1「表の風に吹かれろ!」
一番重要な〝強味論〟と同じく、大事な戒めである。
すなわち、第1に企業はあくまでも社会の中で生きていく存在である以上、
企業組織の外の情報、動き、トレンドに鋭敏な触覚をもっていなければ、
結局のところ衰退と滅亡への道を歩むとドラッカーは強調するのである。
さらに第2に、会社というものは、外部社会から(ヒト、モノ、カネ、シラセ、
ヤリカタなどの)資源をあずかり、それを内部の資源と上手に結合させて、
製品やサービスという形で社会に提供することを本務とする。
もしも、その製品やサービスを社会が受け入れてくれれば、社会は
その受け入れ方を利益という形でもたらしてくれる—–
こうした考え方が、「表の風」論の底には流れているのである。
第3にドラッカーは「会社組織の中にあるのはコストのみ」という言い方で
〝表の風〟について、別の角度から表現していることにも注目したい。
第4に、ドラッカーの経営学はマーケティングをベースとするが、これも、
この表の風の議論の延長戦上にあらわれてくる。
企業の使命は「市場の創造」であるとドラッカーの大命題も、会社の死活や
成否を握っているのは表、すなわち市場だという考え方に裏打ちされているのである。
したがってドラッカーは、その著「創造する経営者」の中で、顧客の創造こそ
事業であるとし、企業を外部から見ることを強調し、そもそも企業が「適切な
事業を行っているか」を、いかにして知るかと問いかける。「わが社の事業は何か。
何であるべきか」を、いかにして知るかの問いに答えるには、事業を
「外から見て」分析することが必要となると主張する。
そして、事業とは、市場において、知識という資源を経済価値に転換するプロセスである。
事業の目的は、顧客の創造である。買わないことを選択できる第三者が、
喜んで自らの購買力と交換してくれるものを供給することである。
そして、完全独占の場合も除き、知識だけが、製品に対し、事業の成功と
存在の空極の基盤たるリーダーシップの地位を与えてくれる、と
明確に述べている。
そして、今日マーケティングと称されているものを厳しく批判し、せいぜい、
販売予測や出入庫管理や広告を統合した体系的販売活動にすぎないと断じる。
もちろん、それはそれでよいこではあるが—à
しかしそれらのマーケティングは、以前として、わが社の製品、わが社の顧客、
わが社の技術から発送がスタートしている。
つまり内部からのスタートであって、外からの発想ではない。
ドラッカーは、内部的発想をあくまでも排するのである。
● ドラッカー名言禄その2 「自分はここで何を貢献できるかを考えよ」
「貢献」は英語の原文では「コントリビューション」であるが、「貢献」のほかに
「寄与、役に立つこと、一助となること」などという訳をつけることができる。
また、このコントリビューションは、「発言」とか「寄付」などという使われ方もする
面白い言葉である。
ドラッカーは、「知識の段階から行動の段階に移るときの起点とるのが」
この貢献だという。しかも「何に貢献したいかと思うのではなく、また何に
貢献せよと言われたからでもなく」、自分で真剣に考え抜いて、それぞれの場で
自分が何に貢献すべきかを探り出して、それを実行せよと説くのである。
現代のように知識社会になり、働く人々がすべて知識労働者になってくると、
上司や組織からの指示を求めて自らの行動を決めることは少なくなってきている。
割り当てられたことでもなく、好き放題をやるのでもなく、自ら考え出し、
組織に対して最も付加価値を高めるため、自分の強味を投入せよというのである。
しかもドラッカーは、どこで、いかに貢献するかについて、もう2つ具体的な
注文をつける。
1つは、「貢献のためのプランは明確かつ具体的なものであり、あまり先を見ず、
長くてもせいぜい1年半か2年をその対象期間とせよ」というものである。
2つ目は、貢献目標をやさしすぎず、さりとて、ギャンブルでもするような
イチかバチかでもなく、少々背伸びをしたもので、達成可能なものを、という条件だ。
それなりに難しくて野心的で大胆な目標であるべきだが、無謀ではいけないと
いうのである。
このように見てくると、自らの貢献の内容を選び出すには、
1 状況が求めているもの
2 自分の強味や価値観に根ざしたもの
3 そこから生まれる成果の意味
という3つのファクターを考えればよいという。
現在のように、無限ともいうべき選択肢が提供されている場合、運命に
支配されずに、自らの運命の主人に少しでもなるには、「自らの果たすべき
貢献は何かという問いからスタートするとき、人は自由になる。
責任をもつがゆえに、自由となる」というドラッカーの発言を十分噛みしめる
べきではなかろうか。
この続きは、次回に。