ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 31
● ドラッカー名言録その3 「昨日を捨てよ」
ドラッカーの数多くの至言の中で、最も実行しにくいのが、この言葉に込められた
〝体系的廃棄〟であるといわれている。
ドラッカーはすでに40年も前から、この「捨てろ(abandon=アバンドン)」を口を酸っぱくして
米国内外のビジネスマンに説き続けてきたが、なかなか実践されないという。
しかし、敢然と実行した企業は成功したり、みごとに起死回生を果たしたりしている。
このアバンドンという語は、「a=under(アンダー=その下に)+ban(バン=禁止する)」という
古い英語に由来しており、「捨てる、見放す、悪い習慣をやめる、諦める、
断念する—-」など様々のニュアンスを含んだ言葉である。
「変革」と「革新」の推進を企業の根本的なあり方とするドラッカーからすれば、
このアバンドンこそ、企業がサバイバルするために絶対に必要なプロセスなのである。
そして革新とは単に新しくしたり、新奇なものを取り入れることではない。
まったく新しい、しかも機能する新機軸を打ち出すことであるというのがドラッカーの主張である。
したがって「アバンドン」の趣旨は、「もはや成果を上げられなくなったものや、
貢献できなくなったものに投入している資源を引き上げること」である。
そこから、「昨日を捨てることなくして明日をつくることはできない」という、
『明日を支配するもの』の第3章「チェンジ・リーダーの条件」の中の発言が
出てくるのである。
これは、近代資本主義のエッセンスを「創造的破壊」だとした経済学者J・A・シュンペーターの
主張と基本的には軌を一にするが、それを経営の場から発した提言だといってよい。
しかし捨てるとか、廃棄するといっても、ドラッカーはむやみやたらにそうすることを
促しているのではない。「体系的(システマティック)に廃棄せよ」と条件をつけて
言っているのである。
さらに、今すでに行っていることの廃棄、しかも手法の廃棄までも含めていることに
注目しなければならない。そして、システマティックに廃棄すべきかどうかを
判断する基準としては、あらゆることに関して、これまで行っていなかったという
ゼロベースの家庭に立って、今この段階でそれを始めるかどうかという根源的な
問い直しをせよと述べている。
すべてを白紙に戻して問い直すこと、ご破算にして考え直すことを敢然と行えと
示唆している。この考え方をドラスティックに継承したのがビジネス・プロセス・
リエンジニアリング(BPR)の手法である。
そしてもしも答えがノーだったら、検討しようとか吟味し直そうなどとグダグダ言わずに、
今、直ちにストップさせるべく行動することを強く説いている。
かつてドラッカーは、廃棄ができないことを「経営者の我への投資」として戒め、
これが企業の命とりになることを力説していたが、その主張は今もなお
変わっていないといえよう。
日本の企業、とくに伝統的企業が、今、迫られていることは、実はこの
システマティックにアバンドンすることなのである。
日本の古い諺の「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」にもどこか通じるところの
あるこのアドバイスを、経営者はしっかり認識して実践してほしいものである。
● ドラッカー名言録その4 「NIH(お山の大将)根性を捨てよ」
「アメリカの故度に『NIH』(Not Invented Here)というものがあるが、
アメリカで発明、発見、製造されたものでないものは取り上げるに値しないと
いうこのような高慢な態度は、間違った習性の1つである」
この続きは、次回に。