知識ゼロからのイノベーション入門⑫
第10話 顧客を「ファン」にする。ファンは顧客をつくってくれる。
⚪️ ネット口コミを味方につける。
「マーケティングの神様」フィリップ・コトラーは、口コミの効果を「満足した顧客は平均3人に
話すが、不満を持った顧客は平均11人に話す」と指摘している。
インターネットになると、この数は圧倒的に増える。ベゾスはネット口コミの恐ろしさを
「ネット上で期待に背けば、顧客は5,000人、もしかすると5万人に不満を広げる」と話している。
ベゾスが口コミの威力を体感したのはアマゾン創業時のことだ。
サービス開始から3日目に、ヤフーから、アクセス数が非常に多いリスト「ファッツ・クール
What’s cool」にアマゾンを無料で掲載したいとオファーが来た。
ベゾスはすぐにOK。ほどなくネットスケープからもリスト「ファッツ・ニュー What’s new」で
アマゾン紹介の依頼があり、もちろん快諾。この両方の威力で、注文数が飛躍的に増えたのである。
⚪️ イノベーションで顧客をファンに変える。
知名度も宣伝費もなかったアマゾンにとって、こうしたネット上の口コミ効果は
きわめて大きかった。
ベゾスはこう言っている。
「事業を始めた年に、口コミの威力を経験したことで、異常なまでに我々はカスタマーサービスを
重視する方針を取るようになった」と。
好意的な口コミは、どんな有料広告よりも効果を発揮する。
口コミを味方につけるには、ユーザーに「ファン」となってもらうことだ。
そのためには最高の「ユーザー体験」をしてもらい続ける必要がある。
つまりイノベーションはユーザーのために行うのである。
第11話 短期利益は思い切って無視。イノベーションは成長優先。
⚪️ 初期は損失だらけだったアマゾン
アマゾンは、1997年に株式を公開している。
そのスピードから、よほど儲けていると誤解されるが、実際には損失だらけだった。
1994年の設立から年末までに5万2,000ドルの損失。
1995年に損失は30万ドルに膨らむ。
1997年末も、売上は1億4,780万ドルだが、損失も2,760万ドル。
企業は成長していたが、利益はさっぱりだった。
だが、ベゾスは、たとえ利益が出てもサイトの改善に注ぎ込もうと考えていた。
1995年ベゾスは約100万ドルの資金調達を行っているが、投資した人たちに
「資金が戻ることはないですよ」と伝えていた。
株式公開に際して提出する目論見書には、さらに露骨に「わが社の考えでは、
しばらくは相当な営業損失が発生し、その損失発生率は現時点よりも大幅に高まる」と
書いた。短期的利益の追求など無視すると言ったのだ。
⚪️ 将来に対して投資する。
多大な損失が出ても、コストがかかっても、会社を大きくして市場を支配する。
そうすればいつかは、利益を上げられるとベゾスは考える。
普通の経営者なら利益無視などできないが、ベゾスは平気で「私たちは他とは違う
凄いことをしようとしている。将来に対して投資しているのだ」と明言している。
その言葉通り、ベゾスはビジネスを本だけから多種多様な製品へと広げ、電子書籍の
リーダー端末「キンドル Kindle」まで販売している。
利益を出せ、株主に配当したらどうだという声に耳を貸すことなく、ベゾスははるか先を
見ているようだ。そして、長期的な視点はイノベーションに必須のものである。
第12話 ブランド化を進めて顧客の認知度を高める。
⚪️ 価値あるブランドは1分野3つまで。
品質に差がなくなることをコモディティ化という。
コモディティ化すると価格以外で勝負するのが難しくなり、不毛な安売り競争に陥る。
それを防ぐにはブランドを築くことだ。
本はコモディティ製品の典型といえる。
どこの書店で買っても内容は同じだ。
ネット販売が増えれば価格比較ができるようになり、出口のない価格競争になるだろう。
そんな世界でアマゾンが巨大化できたのは、ベゾスの巧みなブランド戦略にある。
ブランド力で、多少価格が高くても買ってくれる。
ベゾスは、メーカーはたくさんあるが、価値あるブランドは1分野で3つくらいまでだと
考えていた。
確かにパッと思いつくブランドは少なく、そして圧倒的に強いものだ。
⚪️ なぜアマゾンは倉庫を重視するのか。
ベゾスはインターネット販売で圧倒的なブランドを築くために莫大な資金を注ぎ込み、
創業4年でアメリカの成人の半数以上が同社を知るほどの認知度を達成した。
その結果、1998年には年間売上26億ドル、欧米に7,500人の社員を抱えるほどに成長した。
プランドは広告だけでは確立できない。
ブランドとユーザーが接するすべての場面で価値が体現されなければならない。
ベゾスは、サイトの使いやすさ、本の発送を行う倉庫など物流にこだわり続けた。
ユーザーと接するこの部分で期待を裏切れば、アマゾンのブランドは傷つく。
「倉庫がなければ会社は存続しない」という言葉に、ベゾスがブランドを築くために
何を重視するかが表れている。
この続きは、次回に。