「孫子 抜粋」 ⑧
71. 進而不可禦者、衝其虚也
進みて禦(ふせ)ぐべからざるは、その虚を衝けばなり
攻めるときには、相手の虚を衝くことである。
そうすれば、相手はとても防ぎきれるものではない。
72. 退而不可追者、速而不可及也
退きて追うべからざるは、速やかにして及ぶべからざればなり
逃げるとなったら、すばやく逃げることである。
そうすれば相手は追いつきようがない。
73. 我欲戦、敵雖高塁深溝、不得不与我戦者、攻其所必救也
われ戦わんと欲すれば、敵、塁(るい)を高くし溝(みぞ)を深くすといえども、
われと戦わざるを得ざるは、その必ず救うところを攻むればなり
こちらが戦いたいと思ったならば、相手がどんなに守りを固くして閉じこもろうと思っても、
戦いの場に引き出すことができる。
それは、相手がどうしても救わなければならないところを攻めるからである。
74. 我不欲戦、画地而守之、敵不得与我戦者、乖其所之也
われ戦いを欲せざれば、地を画(かく)してこれを守るも、
敵、われと戦うことを得ざるは、その之(ゆ)くところに乖(そむ)
けばなり
こちらが戦いたくないと思ったら、地面に境界の筋を描いた程度で守りを固めないでも、
敵をこなくさせることができる。
それは、こちらが敵のくるところにいないからである。
75. 我専為一、敵分為十、是以十攻其一也、則我衆而敵寡
われは専(もっぱ)らにして、一となり、敵は分かれて十とならば、
これ十をもってその一を攻むるなり、すなわち、われは衆(おお)くして、
敵は寡(すく)なし
こちらは集中して一つになり、敵は十に分散したとすれば、こちらは
十の力で敵の一の力に当たることになる。
すなわち味方は多数、敵は少数なのである。
76. 備前則後寡、備後則前寡、備左則右寡、備右則左寡、
無所不備、則無所不寡、寡者備人者也、衆者使人備己者也
前に備うれば後寡(すく)なく、後に備うれば前寡なく、左に備うれば右寡なく、
右に備うれば左寡なし、備えざるところなければ寡なからざるところなし、寡なきは人に
備うるものなり、衆(おお)きは人をして己(おの)れに備えしむるものなり
前を守れば後ろが手薄になり、後ろを守れば前が手薄になり、
左を守れば右が手薄になり、右を守れば左が手薄になる。
あらゆるところを守ろうとすれば、あらゆるところが手薄になってしまう。
手薄になるのは受け身になるからであって、主導権をとれば兵力に余裕ができる。
77. 知戦之地知戦之日、則可千里而会戦、
不知戦地不知戦日、則左不能救右、
右不能救左、前不能救後、後不能救前
戦いの地を知り戦いの日を知れば、千里にして会戦すべし、
戦いの地を知らず戦いの日を知らざれば、左は右を救うことあたわず、
右は左を救うことあたわず、前は後ろを救うことあたわず、後ろは前を救うことあたわず
どんなところで戦うのか、いつ戦うのか、こうしたことがわかっていれば、
たとえはるばる遠征したとしても、主導的に戦うことができる。ところが、そうしたことがわからず、
やみくもに戦いとなったならば、組織的な動きはおろか大混乱をおこしてしまうだろう。
78. 角之而知有余不足之処
これに角(ふ)れて有余不足のところを知る
こころみに実践してみて、プラス・マイナスのデータを得ること。
79. 形兵之極、至無形
兵を形(かたち)するの極(きわ)みは無形(むけい)に至る
もっとも理想的な戦闘態勢は、形のないことである。
80. 兵形象水、水之形避高而趨下、兵之形避実而撃虚、
水因地而制流、兵因敵而制勝、故兵無常勢、水無常形
兵形は水に象(かたど)る、水の形は高きを避けて下(ひく)きに趨(おもむ)き、
兵の形は実(じつ)を避けて虚を撃つ、水は地に因(よ)りて流れを制し、兵は敵に
因りて勝ちを制す、故に兵に常勢なく、水に常形なし
理想的な戦闘体制は、水に似ている。水が高いところをよけて低いところへ流れていくように、
戦闘は敵の強いところを避けて隙(すき)を衝(つ)くのがよい。
また水が地形に従って流れていくように、敵の力を逆用して勝利をおさめていくのがよい。
だから、戦い方は固定すべきでない。水に一定の形がないようなものである。
この続きは、次回に。