お問い合せ

「孫子 抜粋」-12

111.凡処軍相敵、絶山依谷、視生処高、戦隆無登、此処山之軍也
        およそ軍を処(お)き敵を相(み)るに、山を絶(こ)ゆれば谷に依り、
        生を視(み)て高きに処り、隆(たか)きに戦いては登ることなかれ、

        これ山に処るの軍なり


         山地で戦う場合、山を越えたならば、谷の南面、見通しのきく高所に布陣せよ、
         高所の敵と戦うには、こちらから登っていかず、敵を引き降ろすのがよい。

112.凡地有絶澗、天井、天牢、天羅、天陷、天隙、必亟去之、勿近也、
       吾遠之、敵近之、吾迎之、敵背之

        およそ地に絶澗(ぜっかん)、天井(てんすい)、天牢(てんろう)、天羅(てんら)、
        天陷(てんかん)、天隙(てんげき)あらば、必ず亟(すみやか)にこれを去りて、

        近づくなかれ、われはこれに遠ざかり、敵はこれに近づかしめよ、われはこれを迎え、

    敵はこれに背(はい)せしめよ

        切り立った峡谷、四方がそびえた山合い、三方が山に囲まれた場所、草木の密生した

        ところ、低い沼沢(しょうたく)地、断崖でせばまった細い道のような地形があれば、
      (行動しにくいので)速やかにそこから立ち去り近寄ってはならぬ。

         味方はここから遠ざかり、敵を誘い込め。

        このような地形で戦うときには、それを背にした敵に向かって攻めよ。

113.卒未親附而罰之則不服、不服則難用也、卒已親附而罰不行、則不可用也
        卒(そつ)いまだ親附(しんぷ)せざるにこれを罰すれば服せず、服せざれば用い難きなり、
        卒すでに親附せるに罰行なわざれば、用うべからざるなり

 
        まだ信頼関係ができていないのに、規律だけ厳しくしたのでは、部下は心服しない。

         心服していない部下を使うのは難しい。逆に、心服しているのに、規律を厳しくしな

         ければ、部下はわがままになって使いようがなくなる。

114.令素行以教其民則民服、令不素行以教其民則民不服、令素信者、与衆相得也
        令、素(もと)より行なわれて、もってその民を教うれば民服す、
        令、素より行われずして、もってその民を教うれば民服せず、
        令の素より信なるは衆とあい得るなり

 
         平素、指導者が、自ら発した布令を、言葉どおり実施していれば、人民は言われたことを

         信用してそれに従うものである。

         しかし、平素、発した布令のとおり実施していなかったならば、いざというとき、

         いくら説教しても、人民は服従しない。

         常々、人々から信じられているものが、人々と成果を分かち合えるのだ。

115.地形、有通者、有挂者、有支者、有隘者、有険者、有遠者、
       凡此六者、地之道也、将之至任、不可不察也

        地形には、通(つう)なるものあり、挂(けい)なるものあり、支(し)なるものあり、
        隘(あい)なるものあり、険(けん)なるものあり、遠(えん)なるものあり、
        およそこの六者は地の道なり、将の至任(しにん)、察せざるべからず


        地の利を得るような戦い方をするために地形を見極めることは、
        将の重要任務であり、地形の特徴を知り尽くしておかねばならない。
        重要な地形には六種ある。
        通-道が四方に通じているところ。(早く行って高地を確保すること。)
        挂-進みやすいが退きにくいところ。

         (敵が防備を固めていると、こちらは引き返せず、窮地に陥るから注意せよ。)
         支-どちらも出ていったら不利になるような地形。(敵の誘いに乗らないこと。)
         隘-せまい場所。(敵に先を越されたら、相手にならず退くこと。)
         険-けわしいところ。(先に占拠したほうが有利。)
         遠-勢力均衡のときは、はるばる出ていった方が不利である。

116.兵有走者、有弛者、有陷者、有崩者、有乱者、有北者、
        凡此六者非天之災、将之過也

         兵には、走(そう)なるものあり、弛(ち)なるものあり、陷(かん)なるものあり、
         崩(ほう)なるものあり、乱(らん)あるものあり、北(ほく)なるものあり、
         およそこの六者は天の災にあらず、将の過ちなり


         負け方には六つある。これは運ではなく、将の責任である。
         走-敗走。兵力の集中と分散についての作戦を誤り、少数で大敵にぶつかった場合。
         弛-軍規のゆるみ。陷-戦力の空洞化。崩-指導部の不一致。乱-戦闘部隊の混乱。
         北-戦線離脱。敵の兵力推定を誤った結果、弱兵が強兵にぶつかった場合。

117.卒強吏弱曰弛、吏強卒弱曰陷
         卒(そつ)の強くして吏の弱きを弛(ち)という、吏の強くして卒の弱きを陷(かん)という


         兵士が強くて幹部が弱い状態を弛という。(組織がしまらなくなっている状態)
         幹部が有能で兵士が弱い状態を陷という。(組織の内容が空洞化している状態)

118.将弱不厳、教道不明、吏卒無常、陳兵縦横曰乱
         将の弱くして厳ならず、教道も明らかならずして、吏卒は常なく、兵を陳(つら)ぬること

         縦横なるを乱という


         将が弱気で、厳しさを欠き、指導方針が不明確であり、兵士は動揺しており、戦闘配置は

         でたらめであるような状態を混乱という。

119.夫地形者兵之助也、料敵制勝、計険阨遠近、上将之道也、
        知此而用戦者必勝、不知此而用戦者必敗

         それ地形は兵の助けなり、敵を料(はか)って勝を制するに、
         険阨(けんあい)、遠近(えんきん)を計るは上将の道なり、
         これを知りて戦いを用うる者は必ず勝ち、これを知らずして戦いを用うる者は必ず敗る


         地形は戦いに際して重要な助けとなるものである。だから、総大将たるものは、
         敵情を見極めて作戦計画を立てるときに、地形の状態、道のりなどを十分、計算に入れ

         なければならない。地形をよく承知して戦う者はきっと勝利を得、地形を知らずに戦う者は

         必ずや敗北するだろう。

120.視卒如嬰児、故可与之赴深谿、視卒如愛子、故可与之倶死
         卒を視(み)ること嬰児(えいじ)のごとし、故にこれと深谿(しんけい)に赴(おもむ)

         くべし、卒を視ること愛子のごとし、故にこれとともに死すべし

     部下の兵士をかわいい愛児のように扱う。だからこそ、かれらは命令とあれば、深い谷底で

         あろうと降りていくし、生死を共にしようという気持ちになるのである。

 

 

この続きは、次回に。

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