「孫子 抜粋」-16
151.夫戦勝攻取、而不修其攻者凶、命曰費留
それ戦勝攻取して、その攻を修めざるは凶なり、命(な)づけて費留(ひりゅう)という
たとえ戦争で勝ったとしても、肝心の目的が遂げられなかったならば、大失敗である。
まさに骨折り損のくたびれ儲け(費留)というべきである。
152.主不可以怒而興師、将不可以慍而致戦、合於利而動、不合於利而止
主は怒りをもって師(し)を興(おこ)すべからず、
将は慍(いきどお)りをもって戦いを致すべからず、
利に合して動き、利に合わざれば止む
主たる者は、怒りによって兵を起こしてはならぬ。
将たる者は、憤りによって戦いを交えてはならぬ。
一時の感情でなく、有利ならば行動を起こし、不利ならば動かないという冷静な判断が必要である。
153.愛爵禄百金、不知敵之情者、不仁之至也、非人之将也、非主之佐也、非勝之主
爵禄(しゃくろく)百金を愛(おし)んで、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり、
人の将にあらず、主の佐にあらず、勝の主にあらず
恩賞や費用を出し惜しんで、敵の情報収集を怠るようなことがあってよいであろうか。
そういう指導者は、人の上に立つ将軍とはいえない。主君のよき輔佐役ともいえない。
また、これでは勝者となることもおぼつかないのである。
154.明君賢将、所以動而勝人、成功出於衆者、先知也
明君賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出ずるゆえんのものは、先知(せんち)なり
明君賢将が、戦えば必ず勝ち、人よりも抜きんでた成果をあげ得るのは、「先知」である。
(先知とは、情報収集、それによる予測をさす。)
155.用間有五、有郷間、有内間、有反間、有死間、有生間
間を用うるに五あり、郷間(ごうかん)あり、内間あり、反間あり、死間あり、生間あり
敵の情報を収集する間者には五種類ある。
敵国の住民、敵国の役人、敵国の間者を寝返らせる、
死を覚悟で敵地に潜入させる、敵国から生還して報告する、である。
156.三軍之事、交莫親於間、賞莫厚於間、事莫密於間
三軍の事、交わりは間(かん)より親しきはなく、
賞は間より厚きはなく、事は間より密なるはなし
間者は、全軍の中で、最も信頼のできる人物を当てる。そして、最高の待遇を与える。
その活動については絶対に秘密を守らなければならない。
157.非聖智不能用間、非仁義不能使間
聖智にあらざれば間(かん)を用うること能わず、仁義にあらざれば間を使うこと能わず
英知優れた君主でなければ、間者を活用できない。仁と義を重んずる君主でなければ、
間者を使うことができない。
158.凡軍之所欲撃、城之所欲攻、人之所欲殺、
必先知其守将、左右、謁者、門者、舎人之姓名、令吾間必索知之
およそ軍の撃たんと欲するところ、城の攻めんと欲するところ、人の殺さんと欲すると
ころは、必ずまずその守将、左右、謁者(えつしゃ)、門者、舎人の姓名を知り、わが間を
して必ずこれを索知(さくち)せしむ
敵軍と戦うにも、敵城を攻めるにも、敵将を暗殺するにも、なにはさておき、
必ず、敵の司令官、側近、秘書役、門番、従者の姓名を知り、敵地に潜ませている
わが方の間者を 使ってその動静をよく調べさせることだ。
159.敵近而静者、恃其険也
敵近くして静かなるは、その険を恃(たの)むなり
敵に近づいてもひっそりと静まり返っているのは、敵が天険を頼みにして何か期する
ところがあるからである。
160.遠而挑戦者、欲人之進也
遠くして戦いを挑む者は、人の進むを欲するなり
敵が近づこうとせず、しかもしきりに挑発してくるのは、何か狙いがあって、こちらを
誘い出そうとしているのである。
この続きは、次回に。