認知症予防学 6
“老年症候群”をチェックしてみましょう
高齢になると複数の症状が重なって現れます
“老年症候群”は「認知症、せん妄、転倒、骨粗しょう症、嚥下障害、褥瘡、睡眠障害」など、
高齢者の健康に障害を及ぼす一連の症状のことです。
この症候群の特徴は、「明確な疾病ではない・症状が致命的ではない・日常生活への
障害が初期には小さい」などの点で共通しています。
高齢者の場合は、このような一見したところ深刻とは思われない症状が、さまざまにつながり、
重なり合って、著しい心身の虚弱化と潜在的な疾病をもたらしています。
あなたは、何らかの以上や徴候を感じたことがありませんか?
毎日の自分の日常生活の行動をチェックしてみましょう。
▶️ 日常生活動作の機能—-移動、入浴、身支度(衣服の着脱、歯磨き、爪きり)、トイレの使用、
排泄のコントロール、食事の動作、嚥下
▶️ 道具を使った動作の機能—–電話の使用、外出、買い物、食事の支度、家事、
薬の正しい服用、金銭の管理
▶️ 精神機能の評価—認知障害、うつ病をはじめとする気分の障害、
せん妄状態の有無
▶️ 社会面の評価—家族との関係、経済状態、公的援助、
地域のサービス利用
第1章 もの忘れと認知症の見分け方
〝国民の最も恐れている病気〟って何?
▶️ 認知症は後戻りできない進行性の病気です
厚生労働省が行った健康調査の中で「あなたが一番かかりたくない病気は何ですか?」と
いう質問があります。
これは「最も国民に嫌われる病気は何?」という調査なわけですが、その答えはがんや
心筋梗塞や脳卒中などの難物をしりぞけて「認知症」がトップでした。
ちなみに、最新の「人口動態統計」(平成20年・厚生労働省)によれば、国民の3大死因は、
第1位:「悪性新生物(がん)」、第2位:「心疾患(狭心症・心筋梗塞等)」、第3位:
「脳血管疾患(脳梗塞・脳血栓・脳出血等)で、第4位は「肺炎」、第5位は「不慮の事故」、
第6位は、が「老衰」7位「自殺」の順となっています。
これは、国民が健康について抱く不安は、「がん」のように死に直面する病や、
「脳卒中」のように寝たきりになりやすい病だけではなく、それ以上のものとして、
「自分が自分でなくなる脳細胞の死滅の恐ろしさ」を実感している、ということでしょう。
「認知症」は、わたしたちが人間らしくあるために不可欠な「記憶と知能と行動」を
根こそぎ奪い去り、重症になれば取り返しのつかない進行性の病気です。
日本認知症学会によれば、認知症患者は現在65歳以上の高齢者人口10%前後で、
わが国の認知症の医療受診者数はこの20年間で約30倍を超えています。
認知症患者数は2015年に260万人になると推測され、2009年現在、64歳以下で発症する
「若年性認知症」患者数は全国で約3万7800人(厚生労働省研究班推計)です。
また、国際アルツハイマー病協会(ADI)と世界保健機構(WHO)等の共同推計では、
世界の認知症患者数は約2400万人に上り、2040年には8200万人になるとの見通しです。
どんなに健康な人であっても、人間は、いつかは必ず「判断停止の時」「自分を失う時」を迎えます。
それはなぜでしょうか?
その軌道をできるだけ回避し、長く遅らせる方法はあるのでしょうか?
今日「認知症」の人は明日も「認知症」
▶️「近頃もの忘れが気になる」人は大丈夫
「このごろ、もの忘れが気になって仕方がない」と感じているあなたは、おそらく、
「認知症」ではありません。
▶️ 「健康なもの忘れ」の人、「病的なもの忘れ」の人
「もの忘れが気になるようになった—-」といっても、健康な人の「もの忘れ」と
認知症の患者さんの「もの忘れ」には大きな違いがあります。
たとえば、健康な人のもの忘れは、自分で「忘れっぽくなった」という自覚がありますが、
認知症の患者さんは「忘れやすい」という自覚がないのです。
忘れたこと自体を忘れてしまいます。
▶️「いつ・どこ・だれ」がわからなくなる
健康な人のもの忘れはその場かぎりのものです。
「いま、とっさに思い出せない」といっても、それが後を引くわけではありません。
その場で「ド忘れ」をして、ちょっとあわてたりしても、落ち着いて時間がたったら
自然に思い出せる、というのが健康な人のもの忘れです。
ところが、認知症の患者さんの場合には、一度忘れたものは還ってきてはくれません。
「時間がたてばそのうち思い出せる」わけではないのです。
病気によるもの忘れですから、明日も今日も同じように、もの忘れが続いています。
つまり、「今日認知症の人は、明日も認知症」ということになります。
認知症は、少しずつ悪化していく「進行性の病気」ですが、これは医学的に説明すると、
「後天的な脳の病気によって、正常に発達した知的機能が全般的に低下し、それによって、
日常生活に支障をきたしていく過程」ということになります。
認知症の症状は一時的な現象ではなく、増減はあるものの、そのまま放置しておくと、
経過とともにどんどん進行して、日常生活のあちこちに支障をきたすようになって
という特色があります。
逆にいいますと、「日常生活に支障をきたさないもの忘れ」であれば、認知症では
ないといってよいわけです(最近は認知症の初期以前の軽い段階が注目されていますが、
それについて後述します。
さらにいえば、認知障害をきたしても、それが意識障害に基づくものでない、という点が
認知症の判定においては重要になってきます。
たとえば、急性の脳卒中の症状によって意識がもうろうとする、記憶がなくなる、
行動に障害がでてくる、といった場合には、一時的にもの忘れや障害が多くなったとしても、
認知症と即断することはできません。
この続きは、次回に。