成功の要諦 -11
生まれたときより少しはきれいな魂で
それでは、世のため人のために貢献するには何が必要か。
それには、美しい心がなくてはなりません。世のため人のために尽くすことができる、
美しい心にならなければなりません。
これこそがこの世に生を享けたことの勲章であり、人生の目的である、という結論になりました。
私は、死によって肉体は滅びても、魂は滅びないと考えています。
人生のなかで、つらいこと、楽しいことなど、さまざまな経験に向き合ってきて、魂があの世に
旅立つとき、少なくとも生まれたときよりはきれいな魂、心になっている。
そうなったときに、人生の目的を果たしたと言えるのだと思います。
生まれたときよりも死ぬときのほうが、魂また心がよいものになっているということが、
人生において何よりも価値あることなのです。
六波羅密の修行で心を磨く
では、どうすれば心を磨くことができるのか。
かねてより、私は経営には哲学が必要だと説いてきました。
また、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という方程式をつくり、考え方が重要だと
いうことを訴えると同時に、考え方、つまり心を高めることが経営を伸ばすことになるのだとも
論じてきました。一方、そのようななかで、私は仏教を勉強するようになり、「六波羅密」のことを
知りました。六波羅密とは悟りを開くためにお釈迦さまが説かれたもので、六つの修行をすることに
よって人間の心が浄化、純化され、最終的に悟りの境地に行き着くことができるというものです。
利他の心を持ち、煩悩を抑える
心を浄化、純化し、ついには悟りの境地に行き着くという六波羅密の六つの修行。
その最初に挙げられていのるが「布施」です。
布施とは施しをするということであり、世のため人のために尽くすということです。
我々は事業家として、企業経営者として、正当な利益を追求し、その利益で従業員を養い、
社会に貢献しています。また私は常に「利他の心」ということを説き、他を利するということを
大変大事にしてきました。相手の人を助け、施しをしてあげることによって自分の事業も成功する、
と考えているのです。「情けは人のためならず」というように、人のために尽くしてあげることによって
自分自身が潤うのです。
お坊さんにお金などを寄付することだけがお布施ではありません。
人を助け、人のために尽くしてあげることが布施です。人のために尽くすことを、常に考え実行する。
これが布施の修行なのです。
六波羅密の二つ目は「持戒」です。
戒律を守る、つまり煩悩を抑え、人間としてしてはならないことはしないということです。
人間はひとたび成功すると、どうしてもさらなる成功を求めてしまいます。
成功したことに感謝し、足るを知ることが必要であるにもかかわらず、「ここまで成功したのは
自分の力だ。自分はもっと成功できるはずだ」と、感謝するどころか、不足を感じる。
そうして傲慢にもさらに成功を追い求めてしまう。
そのように止まることを知らず、足ることを知らない欲望を貪欲というのですが、貪欲を含む
さまざまな煩悩を抑えるのが、持戒なのです。
誰にも負けない努力をする
六波羅密の三つ目は「精進」です。
これは誰にも負けない努力をするということです。
いままで説明したように、「布施」によって、世のため人のために尽くし、魂を磨きます。
持戒によって、人間としてしてはならないことはしないように努め、心を磨きます。
精進では、誰にも負けない努力をし、一所懸命に働くことによって心を磨きます。
この「布施」「持戒」「精進」という三つの修行のなかで、最も重要なことは精進である、
と私は考えています。
中小企業経営者は、日々大変な努力をしています。
朝早くから夜遅くまで働いて、よく身体がもつものだと思うほど頑張っています。
こうした努力は、心を磨き、人間をつくるのに最も大きな効果があります。
真面目に一所懸命に努力をしている中小企業経営者に、悪い人がいるはずはありません。
中途半端でいい加減な経営をして、そこそこの成功で栄耀栄華を極めているような人は
ろくでもない人がほとんどです。
ですが、本当に苦労をして一所懸命働いていると、自然と人間ができてきます。
働くのは生きる糧、つまり給料を得るためだけではありません。
その人の人間をつくっていく上で大変大事なことなのです。
この続きは、次回に。