お問い合せ

第2回 認知症医療介護推進フォーラム ④

肥満パラドックス 心不全と肥満との関係性 

 

東京慈恵会医科大学 附属柏病院 循環器内科 部長代行

                      小武海公明先生

日本人の心不全と肥満について研究されている、小武海先生にお話を伺いました。

肥満パラドックスとは

太っている人は、高血圧や糖尿病など、いろいろな病気にかかりやすいといわれています。

フラミンガム研究(フラミンガム地方でおこなわれた観察研究)では、肥満者は心不全になる

リスクが高いことが示されている。

ところが、心不全の患者さんのその後を調べてみると、BMI(体格指数、体重/身長2) が

高い方が長生きするという報告が増えてきました。

現象は、肥満による逆説、肥満パラドックスと呼ばれています。

この肥満パラドックスという現象は、心不全に限らず、高血圧、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、

末期腎不全、慢性閉塞性肺疾患、悪性疾患などにおいても認められています。

心不全と肥満パラドックス

最初、欧米で報告されたのは、心不全患者をBMIにより分けて、その予後を検討したところ、

肥満や肥満気味の人の方が、適正体重や、低体重の人よりも予後(その後の経過)が良いと

いうことでした。当初は、肥満や肥満気昧の人の方が、若い傾向にあり、患者背景の違いだと

考えられていました。

そこで、いくつかの報告を合算して、症例数を増やして再解析してみました。

すると、心不全患者の予後に影響する他の因子などで補正しても、BMIが高い方が

心不全患者の予後が良いという結果になりました。

補正というのは、たとえば同じ年齢同士で比べる、同じ性別で比べるなどというように、

条件を合わせて比べることです。

日本人の心不全と肥満パラドックス

日本人と欧米人は見てのとおり、体格も全然違い、飲む薬の量もまるっきり違います。

そこで、日本人でも同様の現象が見られるかどうか、検討してみました。

設に心不全で入院し、無事に退院した患者さんについて、調査しました。

ただし、心筋梗塞直後の心不全、透析症例、心臓外科で手術を受けた症例をのぞいています。

219人をBMI4分位に分けて検討しました。

4分位というのは各グループの人数が同じになるよう、BMIが低い方から4つのグループに

分けるということです。

BMIが低い方から、(BMI 13・84~21・40)、Q2 (21・41~23・67)、Q3 (23・68~26・93)、

Q4 (26・94~48・61)としました。

それぞれ54~55人ずつになります。

4群のその後を比べると、BMIが高いグループの方が、低いグループより死亡+心不全入院が

少ないという結果になりました。

各グループの背景を比べると、BMIが高いグループの方が若かったり、 ヘモグロビン値が

高かったりするのですが、いろいろな因子で補正しても、なおかつBMIが高い方が

死亡+心不全が少なくなりました。

他の日本のグループからも、同様の結果が報告されています。

肥満パラドックスのメカニズム

それでは、なぜ心不全患者は太っている方が長生きするのでしょうか。

患者背景が違うからかもしれません。

例えばBMIが高い群は若く、若いと治療も積極的に行われ、

それが予後と関係しているかもしれません。

心不全の重症度が違うかもしれません。

肥満の患者はなんとなく重症のようにみえたり、

レントゲンも白っぽくて、軽症なのに入院してくるかもしれません。

肥満患者は、もともと血圧が高めの人が多いので、心不全治療薬が十分に使われます。

心不全治療薬の多くは血圧を下げる作用があり、血圧が高い方が使いやすいのです。

でも、それだけで、肥満パラドックスが説明できるのでしようか。

最近の研究は、これらの年齢や重症度などは、ある程度”統計学的に補正”しているはずです。

もっとも考えられているのは、肥満だから予後がよいというよりも、病気の進行(悪化)と

ともに体重が減少してくるという考え方です。

これは、心不全患者と考えると、ぴんとこないかもしれませんが、悪性疾患を考えると

なんとなくわかりそうな気がします。

そして、指肪細胞にもよい面があるかもしれません。

脂肪細胞は内分泌臓器です。これは、脂肪細胞が沢山のホルモンを出すということです。

それではホルモンとはなんでしようか。

ホルモンとは、血液中に分泌され、血液を介して色々な臓器に作用する物質です。

脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの代表がアディポネクチンですが、これは、BMIが

高くなると分泌は減少してしまいます。でも、他にも善玉ホルモンを産生しているかもしれません。

また、脂肪細胞はエネルギーの貯蔵庫です。十分なエネルギーを摂取できなかったり、

細胞がエネルギーを効率よく使用できないときには、このエネルギーが役立つのかもしれません。

ただ、現時点で、心不全になったら太った方がいいというのは早計な気がします。

心不全の栄養管理

心不全が全身の消耗性疾患であることを考えると、薬物治療と同様に栄養管理が重要です。

特に、心不全患者は過度な塩分制限を強いられ、食欲が低下しがちです。

また、消化管の浮腫なども生じるとさらに食欲が低下し、吸収も悪くなります。

特に心不全は、薬物療法に目が行きがちですが、十分な栄養を取り、長期的に体重を

維持することも重要なのではないでしょうか。

                2012年9月 提供:TMDC MATE

この続きは、次回に。

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