認知症はもう怖くない ⑰
物忘れ意外の症状をチェックする
私たちの脳は五感(視る、聴く、触る、嗅ぐ、味わう)を通じてさまざまな情報を記憶しています。
そのもっとも古い記憶がいつ書き込まれるかというと、なんと生まれる前です。
認知症の典型的な症状は「物忘れ」ですが、じつは「物忘れ」は認知症の症状のほんの一部でしか
ありません。
ヒトの認知機能とは、五感を通じて外部から入ってきた情報から物事や自分の状況を認識したり、
言葉などで表現したり、計算したり、学習したり、記憶したり、問題解決のために役立てたり
などといった、いわば人の知性の働きを総称した概念です。
外からは気がつきにくいのですが、じつは聴覚・味覚・嗅覚にも衰えがきます。
本人は自覚できることはできますが、他者との比較ができにくいし、自覚しても症状を第三者に
わざわざ伝えることもあまりないでしょう。
ですから認知症との関連は注目されていませんでした。
一般的に言って40代ともなれば、腰痛や肩こり、老眼を自覚し、体力の衰えを実感します。
それ以降も、50代で耳が聞こえにくくなることもありますし、65歳を過ぎれば、多くの人が
感覚機能の衰えを感じるものです。
たいていの場合は、こうしたことがあっても、「歳が歳だから仕方がない」と受け入れるのですが、
認知症は五感の衰えをともなうものだということを知っておいてほしいのです。
「自分だけは大丈夫」という根拠なき自信が危ない
認知症予備軍のなかにも、「自分だけは大丈夫だ」と考えている方が少なくありません。
「自分だけは大丈夫」という根拠なき自信は、心理学では「正常性バイアス」とか「正常化の
偏見」と呼ばれているそうです。
自分に都合の悪い情報をないがしろにしたり、過小評価することを意味し、震災や大きな事件などの
際には逃げ遅れの原因となるといいます。
この正常性バイアスは、人間が本来備えている心の機能で、何か異常事態が起きたときに、
過剰な反応をしないことで心身を疲労から守る役割を果たす面もあるそうですが、どちらかといえば
〝出遅れ〟になることのほうが多いのではないでしょうか。
少なくとも病気に関しては、多少なりとも「おかしいな」と思ったらすぐに検診を受けるべきです。
なかでも認知症は、発見が遅くなれば進行を止めることすら難しくなります。
統計学的には「自分だけは大丈夫だ」はあり得ません。病気に関していえば、なるか、
ならないか。すべての人が50%の可能性を持っています。〝特別待遇〟は存在しません。
この続きは、次回に。